情報数理C

4.3:元の位数

定義 4.11
$G$を群とする.元$a \in G$に対し,$a^n=e$を満たす最小の自然数$n$を$a$の位数といい,${\rm ord}(a)$と書く.もしそのような自然数が存在しない場合,${\rm ord}(a)=\infty$と書くことにする.逆に存在する場合は${\rm ord}(a) \lt \infty$と表現する.
補足 4.12
元$a$の位数は巡回群$\langle a \rangle$の位数として定義してもよい.つまり, \[ {\rm ord}(a)=|\langle a \rangle | \] である.
例えば,群$(\mathbb{Z},+)$において,${\rm ord}(2)=\infty$である.実際,任意の自然数$n$に対して$2n>0$である.一方,$((\mathbb{Z}/5\mathbb{Z})^{\times}, \cdot)$において,${\rm ord} (\overline{2})=4$や${\rm ord} (\overline{4})=2$となる(確かめよ).

簡単な位数の性質を見ていく.
命題 4.13
$G$を群とし,元$a \in G$の位数が$n$,つまり${\rm ord}(a) =n \lt \infty$とする. このとき,整数$m$に対し,$a^m=e$である必要十分条件は$n | m$である. 特に,${\rm ord}(a^{-1})=n$である.
証明
($\Rightarrow$)$m$を$n$で割った商と余りを$q,r$とする.つまり,$m=nq+r$で$0 \leq r \lt n$である.すると仮定より, \[ e=a^m=a^{nq+r}=(a^{n})^q \cdot a^r=e^q \cdot a^r=e \cdot a^r =a^r \] となる.このとき,${\rm ord}(a)=n$から$r=0$でなければならない.実際,$0 \lt r \lt n$ で $a^r = e$ となれば$r< n$で$a$の位数より小さい自然数で $a^r = e$ となってしまい矛盾する. よって$m=nq$なので,$n | m$が従う.

($\Leftarrow$)$n|m$からある整数$k$を用いて$m=nk$と書ける.すると \[ a^m=a^{nk}=(a^n)^k=e^k=e \] である.

$-n | n$より$(a^{-1})^n=a^{-n}=e$となることから,${\rm ord}(a^{-1}) \leq n={\rm ord}(a)$である. よって${\rm ord}(a^{-1})\lt \infty$より,同様に考えると,${\rm ord}(a^{-1}) \geq {\rm ord}(a)=n$が言えるので, ${\rm ord}(a^{-1})=n$が従う.
例えば,$((\mathbb{Z}/5\mathbb{Z})^{\times}, \cdot)$において${\rm ord}(\overline{2})=4$だったので,$\overline{2}^{10}=\overline{2}^8 \cdot \overline{2}^2=\overline{1} \cdot \overline{4}=\overline{4}$のように計算でき,$\overline{2}^{-1}=\overline{3}$なので,${\rm ord}(\overline{3})=4$もわかる.

無限群では位数が無限となる元が存在したが,有限群ではどの元の位数も有限である.
命題 4.14
$G$を有限群とする.このとき,任意の$a \in G$に対し,${\rm ord}(a) \lt \infty$である.
証明
$G$が有限群であるので,無限列 \[ a, a^2, a^3, a^4, \ldots \] の中で同じ2つの元が存在する.それを$a^n,a^m$ ($n\lt m$)とする.$a^n=a^m$の両辺の左から$a^{-n}$を掛けると \[ e=a^0=a^{-n} \circ a^n=a^{-n} \circ a^m=a^{m-n} \] となり,$m-n>0$であるので,${\rm ord}(a) \leq m-n \lt \infty$が成り立つ.
さて,例 3.3で,カードの山を何度か同じ切り方をしていくと,必ず元のカードの山の状態に戻るという事実があると紹介した.これまでの結果からこれが証明できる.実際,$n$枚のカードの山の切り方全体の集合というのは$n$次対称群と思うことができた.あるカードの切り方を何度か繰り返すというのは,$\sigma \in \mathfrak{S}_n$を使って$\sigma^r$と表現できる.$\mathfrak{S}_n$は有限群なので命題 4.14から$\sigma^r={\rm id}_n$となる自然数$r$が存在する.これは$\sigma$を$r$回繰り返せば元の状態に戻ることを意味するので事実が確かめられた.後の章で,${\rm ord}(a)$は有限だけでなく,もう少し性質がわかることを示し,オイラーの定理の証明へ繋ぐ.

最後に元の位数を計算するのに便利な命題を証明する.
命題 4.15
$G$を群とし,元$a \in G$の位数が$n$,つまり${\rm ord}(a)=n \le \infty$とする.このとき, 自然数$k$に対し, \[{\rm ord}(a^k)=\dfrac{n}{\gcd(n,k)}\]が成り立つ.
証明
$\gcd(n,k)=d$とおくと,整数$n',k'$を用いて$n=n'd, k=k'd$と書ける.このとき,$\gcd(n',k')=1$である. 示すことは${\rm ord}(a^k) = n'$である.まず, \[ (a^k)^{n'}=(a^k)^{\frac{n}{d}}=(a^n)^{\frac{k}{d}}=e^{k'}=e \] であるから,${\rm ord}(a^k) \leq n'$である. ${\rm ord}(a^k)=m$とすると,$e=(a^k)^m=a^{km}$と命題 4.13から$n | km$である.すると$n'd | k'dm$であるので,$n'|k'm$となるが,$\gcd(n',k')=1$から$n' | m$である.よって$n' \leq m$であるので,$n' \leq m = {\rm ord}(a^k) \leq n'$となり,$ {\rm ord}(a^k)=n'$がわかる.