情報数理C

5.2:同型写像と同型

準同型写像$f : G_1 \to G_2$により$G_2$の中で,$G_1$の群構造をある程度引き継いだ部分群${\rm Im}(f)$を見つけることができる.ということは,${\rm Im}(f)$が潰れずに,それが$G_2$全体,つまり,${\rm Im}(f)=G_2$となれば,$G_1$と$G_2$が同じ群構造を持つと思うことができる.命題 5.8からこれは$f$が全単射であることと同値である.こういった状況を群が「本質的に同じ」と考える.それでは正式な用語を使いこれらを定義する.
定義 5.9
群$G_1,G_2$と準同型写像$f: G_1 \to G_2$を考える.$f$が同型写像 (isomorphism)であるとは,$f$が全単射となるときにいう.また$G_1$から$G_2$への同型写像が存在するとき,$G_1$は$G_2$と同型 (isomorphic)であるといい,$G_1 \cong G_2$と書く.
命題 5.10
$f: G_1 \to G_2$が同型写像であれば,その逆写像も同型写像である.したがって,$G_1$が$G_2$に同型ならば,$G_2$は$G_1$に同型である.よって単に$G_1$と$G_2$は同型であるといってよい.
証明
示すべきことは,$f^{-1}: G_2 \to G_1$が準同型写像であることである.任意の$a,b \in G_2$をとる.$f \circ f^{-1}={\rm id}_{G_2}$および$f$が準同型写像であることから \[ f(f^{-1}(a) \circ_1 f^{-1}(b))=(f \circ f^{-1})(a) \circ_2 (f \circ f^{-1})(b)=a \circ_2 b=(f\circ f^{-1})(a \circ_2 b)=f(f^{-1}(a \circ_2 b)) \] が成り立つ.よって$f$が単射であることから \[ f^{-1}(a) \circ_1 f^{-1}(b)=f^{-1}(a \circ_2 b) \] が従う.よって$f^{-1}$は準同型写像である.
それでは例を見ていこう.
例 5.11
群$\mathbb{Z}/4\mathbb{Z}=\{\overline{0},\overline{1},\overline{2},\overline{3}\}$と$(\mathbb{Z}/5\mathbb{Z})^{\times}=\{\overline{1},\overline{2},\overline{3},\overline{4}\}$に対して,写像$f:\mathbb{Z}/4\mathbb{Z} \to (\mathbb{Z}/5\mathbb{Z})^{\times}$を \[ \overline{0} \mapsto \overline{1}, \overline{1} \mapsto \overline{2}, \overline{2} \mapsto \overline{4}, \overline{3} \mapsto \overline{3}, \] で定義する.手計算により$f$が準同型写像であることがわかる.また定義から明らかに$f$は全単射である.よって$f$は同型写像であるので,$\mathbb{Z}/4\mathbb{Z}$と$(\mathbb{Z}/5\mathbb{Z})^{\times}$は同型となることがわかった.実際,この2つの群の乗法表を書いてみると,全く同じ法則になっていることがわかる.これが同型の意味である.
次に位相が小さい群について見ていこう.
命題 5.12
$G$を位数$2$の有限群とする.このとき, \[ G \cong \mathbb{Z}/2\mathbb{Z} \] である.
証明
$G=\{e,g\}$とする.$G$の例 3.13の乗法表で定義されていることを思い出そう.写像$f: \mathbb{Z}/2\mathbb{Z} \to G$を$\overline{0} \mapsto e$と$\overline{1} \mapsto g$で定義する.このとき,$f$は同型写像である.実際,全単射性は定義から明らかで,準同型性は4通りを全て考えればよい.
この命題は,位数$2$の群構造はただ1つしかないことを意味する.したがって,位数$2$の群を考えるときは$\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}$として考えても問題ないことになる. 同様に以下の命題も簡単に示せる.
命題 5.13
$G$を位数$3$の有限群とする.このとき, \[ G \cong \mathbb{Z}/3\mathbb{Z} \] である.
証明
演習問題とする.
位数が違えば,集合間に全単射写像は存在しないのでもちろん同型ではない.しかし,位数が同じであっても同型にならない群が存在する. それが$\mathbb{Z}/4\mathbb{Z}$と$\mathbb{Z}/2\mathbb{Z} \times \mathbb{Z} / 2\mathbb{Z}$である.この2つの群が同型でないことを定義通り見るためには$\mathbb{Z}/4\mathbb{Z}$から$\mathbb{Z}/2\mathbb{Z} \times \mathbb{Z} / 2\mathbb{Z}$への同型写像がないことを示せばよい.今回の場合は位数が小さい有限群なのですべての可能性(写像)を考えればよいが,もっと大きい群の場合,この方法は現実的ではない. 同型というのは群として同じということだった.つまり,2つの群が違う性質を持てば同型でないことは想像できるだろう.実際,$\mathbb{Z}/4\mathbb{Z}$は巡回群であり,$\mathbb{Z}/2\mathbb{Z} \times \mathbb{Z} / 2\mathbb{Z}$は巡回群でなかった.実は,この事実から,この2つの群が同型でないことがわかる.
命題 5.14
$G_1$と$G_2$が同型な群であるとする.このとき,$G_1$が巡回群であることと,$G_2$が巡回群であることは同値である.
証明
$f : G_1 \to G_2$を同型写像とする.このとき,${\rm Im}(f)=G_2$である. よって命題 5.5より$G_1$が巡回群であれば$G_2$も巡回群である.$f^{-1}$を考えれば逆も示せる.
系 5.15
$\mathbb{Z}/4\mathbb{Z} \not\cong \mathbb{Z}/2\mathbb{Z} \times \mathbb{Z} / 2\mathbb{Z}$である.