2回目:情報数理Aの復習(写像)
2.1 写像
空集合でない集合$X$から集合$Y$への対応を考える.このとき次の2つの性質を持つとき,$X$から$Y$への写像 (map) と呼ぶ.- $X$の1つの要素から対応する$Y$の要素は1つしかない($X$の異なる2つの要素が同じ$Y$の要素と対応してもよい).
- 任意の$X$の要素について,対応する$Y$の要素が必ずある.
写像$f : X\to Y$に対し,集合$X$を$f$の定義域と呼び,${\rm dom}(f)$と書き,集合$Y$を$f$の終域と呼び,${\rm codom}(f)$と書く. また要素$x \in X$に対応する$Y$の要素$f(x)$は$f$による$x$の像 (image)という. この像を全て集めた集合 \begin{equation} {\rm Im} (f):= \{ f(x) : x \in X \} \nonumber \end{equation} を$f$の像という. このとき,いつでも${\rm Im} (f) \subset Y$であるが,${\rm Im} (f) = Y$になるとは限らない. また部分集合$A \subset X$に対し, \[ f(A) :=\{ f(x) : x \in A\} \] を$f$による$A$の像という.このとき,
- $f(X)={\rm Im} (f)$かつ$f(\emptyset)=\emptyset$
- $A_1 \subset A_2 \subset X$ならば$f(A_1) \subset f(A_2) \subset f(X)$
2.2 全射と単射
写像$f : X \rightarrow Y$が全射 (surjective) または上への写像 (onto) であるとは, 任意の$y \in Y$に対し,$y=f(x)$を満たす$x \in X$が存在するときにいう.つまり,どんな$Y$の要素も$f$によって対応があるということである. 論理式で書くと次の命題が真となる: \[\forall y \in Y, \exists x \in X ( y=f(x))\]これは${\rm Im}(f)=Y$と同値である. $f$が全射であることを$f : X \twoheadrightarrow Y$で表す.写像$f : X \rightarrow Y$が単射 (injective) または1対1 (one-to-one)であるとは, 任意の2つの$x_1 ,x_2 \in X$に対し,$x_1 \neq x_2$ならば$f(x_1) \neq f(x_2)$となるときにいう. つまり,$X$の各要素は,$f$によって異なる$Y$の要素に対応するということである. 論理式で書くと \[\forall x_1, x_2 \in X ( x_1 \neq x_2 \rightarrow f(x_1) \neq f(x_2))\]が真となることである. 対偶を考えれば, \[\forall x_1, x_2 \in X ( f(x_1) = f(x_2) \rightarrow x_1 = x_2)\] である. つまり,$Y$のある要素が$f$によって対応していれば,対応する$X$の要素はただ1つ(一意的)に定まるということである.$f$が単射であることを$f :X \hookrightarrow{} Y $で表す.
写像$f : X \rightarrow Y$が全射かつ単射であるとき,全単射 (bijective) と呼ぶ. $f$が全単射なとき,$f$の逆対応を$f^{-1}$で表すと,これは写像の定義を満たす.この写像$f^{-1}$は$f$の逆写像と呼ぶ.集合$A$のある要素$a$を同じ要素$a$に対応させる写像${\rm id}_A : A \to A, a \mapsto a$のことを$A$の恒等写像 (identity map)という. 逆写像を正確に定義すると,写像$f : X \to Y$に対し,写像$g : Y \to X$で$g \circ f ={\rm id}_X$かつ$f \circ g={\rm id}_Y$となるものを$f$の逆写像と呼び,$f^{-1}$と書くのである.また写像$f$が全単射になることと,$f$が逆写像を持つことは同値である.