9. 自然数
自然数は,\(0\)と,各自然数にその次の数を対応させる写像によって特徴づけられる.加法と乗法はこの写像を用いて定義でき,その演算法則は数学的帰納法によって証明される.
9.1 自然数の定義
数学では,すべての主張を別の主張から証明していくことはできない.議論の出発点として採用する前提を公理 (axiom)といい,その集まりを公理系という.公理は,その議論の中では証明せずに用いる. 自然数については,「最初の数」と「次の数」を出発点とする.
集合\(\mathbb N\),記号\(0\),および後者を表す記号\(\mathrm S\)を考え,次の条件を課す.
\(0\in\mathbb N\)である.
各\(n\in\mathbb N\)に対して,その後者 (successor) \(\mathrm S(n)\in\mathbb N\)がただ1つ定まる.この対応によって写像\(\mathrm S:\mathbb N\to\mathbb N\)が定まる.
どの\(n\in\mathbb N\)についても\(\mathrm S(n)\neq0\)である.
\(\mathrm S(n)=\mathrm S(m)\)ならば\(n=m\)である.すなわち,\(\mathrm S\)は単射である.
\(A\subset\mathbb N\)が\(0\in A\)と \[\forall n\in\mathbb N\ (n\in A\ \Longrightarrow\ \mathrm S(n)\in A)\] を満たせば,\(A=\mathbb N\)である.
この公理系に従う自然数を考える.
ここで\(0\)は出発点を表す記号であり,まだ加法や乗法は定義していない. \[1:=\mathrm S(0),\qquad 2:=\mathrm S(1),\qquad 3:=\mathrm S(2),\quad\ldots\] と名前を付けることで,通常用いる自然数の記号が得られる.(P3)と(P4)により,この列の途中で\(0\)に戻ったり,異なる段階の数が一致したりすることはない.
自然数\(n\)に関する性質\(P(n)\)が次の2条件を満たせば,すべての\(n\in\mathbb N\)について\(P(n)\)が成り立つ.
\(P(0)\)が成り立つ.
任意の\(k\in\mathbb N\)に対し,\(P(k)\)が成り立つと仮定すると\(P(\mathrm S(k))\)が成り立つ.
定理 9.2 の証明
\(A:=\{n\in\mathbb N:P(n)\}\)とおく.条件(1)は\(0\in A\),条件(2)は\(n\in A\)ならば\(\mathrm S(n)\in A\)ということである.(P5)より\(A=\mathbb N\)となる.
帰納法の第2段階で\(P(k)\)を仮定することを帰納法の仮定という.これは結論をあらかじめ認めることではなく,「ある段階で成り立てば,次の段階でも成り立つ」という含意を示すための仮定である.第8章では\(1\)から始まる帰納法を使ったが,開始点を\(1\)とする場合も同じ考え方である.
自然数は,\(0\)から後者を繰り返し取って得られる元だけからなる.また,\(0\)以外の自然数は,ある自然数の後者としてただ1通りに表される.
定理 9.3 の証明
\(0\)から後者を有限回取って得られる元全体を\(A\)とする.0回の場合も含めるので\(0\in A\)である.また,\(n\in A\)ならば,\(n\)は\(0\)から後者を有限回取って得られる.したがって,さらに1回後者を取った\(\mathrm S(n)\)も\(0\)から後者を有限回取って得られるので,\(\mathrm S(n)\in A\)である.以上より(P5)を適用でき,\(A=\mathbb N\)となる.
後半の存在については,\(B:=\{0\}\cup\{\mathrm S(n):n\in\mathbb N\}\)とおくと,\(0\in B\)であり,\(n\in B\)ならば\(\mathrm S(n)\in B\)である.したがって(P5)より\(B=\mathbb N\)であるから,\(0\)以外の自然数はある自然数の後者として表される.その表示の一意性は(P4)から従う.
9.2 再帰的定義と自然数の加法
最初の値と,ある値から次の値を定める規則によって写像を定める方法を再帰的定義という.例えば,集合\(A\),元\(a\in A\),写像\(h:A\to A\)に対し, \[f(0)=a,\qquad f(\mathrm S(n))=h(f(n))\quad(n\in\mathbb N)\] という規則により,写像\(f:\mathbb N\to A\)を定義できる.帰納法が性質を証明する方法であるのに対し,再帰的定義は対象を定める方法である.
\(n\in\mathbb N\)を固定する.写像\(f_n:\mathbb N\to\mathbb N\)を \[f_n(0)=n,\qquad f_n(\mathrm S(m))=\mathrm S(f_n(m))\] によって再帰的に定める.\(n+m:=f_n(m)\)と定め,これを自然数の加法という.すなわち, \[n+0=n,\qquad n+\mathrm S(m)=\mathrm S(n+m)\] が定義の規則である.
\(n+m\)は\(n\)から後者を\(m\)回取った数である.例えば,定義だけを使って \[1+1=1+\mathrm S(0)=\mathrm S(1+0)=\mathrm S(1)=2\] と計算できる.同様に, \[\begin{aligned} 2+3 &=2+\mathrm S(2) =\mathrm S(2+2)\\ &=\mathrm S(2+\mathrm S(1)) =\mathrm S(\mathrm S(2+1))\\ &=\mathrm S(\mathrm S(2+\mathrm S(0))) =\mathrm S(\mathrm S(\mathrm S(2+0)))\\ &=\mathrm S(\mathrm S(\mathrm S(2))) =5 \end{aligned}\] である.この段階では,交換律や結合律はまだ使えない.
任意の\(n,m,k\in\mathbb N\)について,次が成り立つ.
\(n+0=0+n=n\).
\(n+1=\mathrm S(n)\).
\(n+\mathrm S(m)=\mathrm S(n)+m=\mathrm S(n+m)\).
\(n+(m+k)=(n+m)+k\)(結合律).
\(n+m=m+n\)(交換律).
定理 9.5 の証明
(1) \(n+0=n\)は加法の定義そのものである.次に\(0+n=n\)を\(n\)についての数学的帰納法で示す.\(n=0\)のときは\(0+0=0\)である.\(0+n=n\)と仮定すると,加法の定義より \[0+\mathrm S(n)=\mathrm S(0+n)=\mathrm S(n)\] となる.したがって,すべての\(n\in\mathbb N\)について\(0+n=n\)である.
(2) \(1=\mathrm S(0)\)であるから,加法の定義と(1)を用いて \[n+1=n+\mathrm S(0)=\mathrm S(n+0)=\mathrm S(n)\] を得る.
(3) 加法の定義より\(n+\mathrm S(m)=\mathrm S(n+m)\)である.したがって,残る等式\(\mathrm S(n)+m=\mathrm S(n+m)\)を\(m\)についての数学的帰納法で示す.\(m=0\)のとき, \[\mathrm S(n)+0=\mathrm S(n)=\mathrm S(n+0)\] である.\(\mathrm S(n)+m=\mathrm S(n+m)\)と仮定すると, \[\mathrm S(n)+\mathrm S(m)=\mathrm S(\mathrm S(n)+m)=\mathrm S(\mathrm S(n+m))=\mathrm S(n+\mathrm S(m))\] となる.最後の等号には加法の定義\(n+\mathrm S(m)=\mathrm S(n+m)\)を用いた.よって\(\mathrm S(n)+m=\mathrm S(n+m)\)がすべての\(m\)について成り立ち,(3)を得る.
(4) \(n,m\)を固定し,\(k\)についての数学的帰納法で示す.\(k=0\)のとき,(1)より \[n+(m+0)=n+m=(n+m)+0\] である.\(n+(m+k)=(n+m)+k\)と仮定すると,(3)と帰納法の仮定より \[n+(m+\mathrm S(k))=n+\mathrm S(m+k)=\mathrm S(n+(m+k))=\mathrm S((n+m)+k)=(n+m)+\mathrm S(k)\] となる.したがって結合律が成り立つ.
(5) \(n\)を固定し,\(m\)についての数学的帰納法で示す.\(m=0\)のとき,(1)より\(n+0=0+n=n\)である.\(n+m=m+n\)と仮定すると,(3)と帰納法の仮定より \[n+\mathrm S(m)=\mathrm S(n+m)=\mathrm S(m+n)=\mathrm S(m)+n\] となる.したがって交換律が成り立つ.
任意の\(n\in\mathbb N\)に対して \[n+a=a+n=n\] を満たす\(a\in\mathbb N\)を,加法の単位元という.定理9.5(1)より,\(0\)は加法の単位元である.
加法の単位元は\(0\)だけである.
定理 9.6 の証明
\(a\in\mathbb N\)を加法の単位元とする.定義で\(n=0\)とすると \[0+a=a+0=0\] である.一方,定理9.5(1)より\(0+a=a\)であるから, \[a=0+a=0\] となる.したがって,加法の単位元は\(0\)だけである.
9.3 自然数の乗法
\(n\in\mathbb N\)を固定し,写像\(g_n:\mathbb N\to\mathbb N\)を \[g_n(0)=0,\qquad g_n(\mathrm S(m))=n+g_n(m)\] によって再帰的に定める.\(n\cdot m:=g_n(m)\)を自然数の乗法という.したがって, \[n\cdot0=0,\qquad n\cdot\mathrm S(m)=n+n\cdot m\] である.以下,積\(n\cdot m\)を\(nm\)とも書く.
例えば,定義を順に用いると \[\begin{aligned} n\cdot3 &=n\cdot\mathrm S(2) =n+n\cdot2\\ &=n+n\cdot\mathrm S(1) =n+(n+n\cdot1)\\ &=n+(n+n\cdot\mathrm S(0)) =n+(n+(n+n\cdot0))\\ &=n+(n+(n+0)) =n+(n+n) \end{aligned}\] となる.このように,乗法は同じ数の加法を繰り返すことで定まる.また, \[\begin{aligned} 3\cdot2 &=3\cdot\mathrm S(1) =3+3\cdot1\\ &=3+3\cdot\mathrm S(0) =3+(3+3\cdot0)\\ &=3+(3+0) =3+3 =6 \end{aligned}\] である.
任意の\(n,m,k\in\mathbb N\)について,次が成り立つ.
\(n\cdot0=0\cdot n=0\).
\(n\cdot1=1\cdot n=n\).
\(nm=mn\)(交換律).
\(n(mk)=(nm)k\)(結合律).
\(n(m+k)=nm+nk\),\((n+m)k=nk+mk\)(分配律).
定理 9.8 の証明
(1) \(n\cdot0=0\)は定義である.次に,\(0\cdot n=0\)を\(n\)についての帰納法で示す.\(n=0\)では\(0\cdot0=0\)である.\(0\cdot n=0\)と仮定すると, \[0\cdot\mathrm S(n)=0+0\cdot n=0+0=0\] となるので,帰納法により\(0\cdot n=0\)である.
(2) \(1=\mathrm S(0)\)なので, \[n\cdot1=n\cdot\mathrm S(0)=n+n\cdot0=n+0=n\] である.次に,\(1\cdot n=n\)を\(n\)についての帰納法で示す.\(n=0\)では(1)より\(1\cdot0=0\)である.\(1\cdot n=n\)と仮定すると, \[1\cdot\mathrm S(n)=1+1\cdot n=1+n=n+1=\mathrm S(n)\] となる.ここで,加法の交換律と定理9.5(2)を用いた.したがって,帰納法により\(1\cdot n=n\)である.
(5) まず\(n(m+k)=nm+nk\)を\(k\)についての帰納法で示す.\(k=0\)では \[n(m+0)=nm=nm+0=nm+n\cdot0\] なので成り立つ.\(n(m+k)=nm+nk\)と仮定すると, \[\begin{aligned} n(m+\mathrm S(k)) &=n\mathrm S(m+k)=n+n(m+k)=n+(nm+nk)\\ &=(nm+n)+nk=nm+(n+nk)=nm+n\mathrm S(k). \end{aligned}\] ここでは,加法の結合律と交換律を用いた.したがって,帰納法により\(n(m+k)=nm+nk\)が成り立つ.
(3) 交換律の証明に用いるため,まず \[\mathrm S(n)m=m+nm\] を\(m\)についての帰納法で示す.\(m=0\)では(1)より両辺とも\(0\)である.\(\mathrm S(n)m=m+nm\)と仮定すると, \[\begin{aligned} \mathrm S(n)\mathrm S(m) &=\mathrm S(n)+\mathrm S(n)m=\mathrm S(n)+(m+nm)\\ &=(\mathrm S(n)+m)+nm=\mathrm S(n+m)+nm=\mathrm S(m+n)+nm\\ &=(\mathrm S(m)+n)+nm=\mathrm S(m)+(n+nm)=\mathrm S(m)+n\mathrm S(m). \end{aligned}\] ここでは,定理9.5(3),加法の結合律・交換律,および乗法の定義を用いた.したがって補助式が成り立つ.
この補助式を用いて\(nm=mn\)を\(m\)についての帰納法で示す.\(m=0\)では(1)より\(n\cdot0=0=0\cdot n\)である.\(nm=mn\)と仮定すると, \[n\mathrm S(m)=n+nm=n+mn=\mathrm S(m)n\] となる.最後の等号では,補助式で\(n\)と\(m\)を入れ替えた式\(\mathrm S(m)n=n+mn\)を用いた.したがって,帰納法により\(nm=mn\)である.
(5)の後半は,乗法の交換律と前半から \[(n+m)k=k(n+m)=kn+km=nk+mk\] と従う.
(4) \(n(mk)=(nm)k\)を\(k\)についての帰納法で示す.\(k=0\)では(1)より\(n(m\cdot0)=n\cdot0=0=(nm)\cdot0\)である.\(n(mk)=(nm)k\)と仮定すると, \[n(m\mathrm S(k))=n(m+mk)=nm+n(mk)=nm+(nm)k=(nm)\mathrm S(k)\] となる.ここでは,乗法の定義,(5)の分配律,帰納法の仮定を用いた.したがって,帰納法により\(n(mk)=(nm)k\)である.
任意の\(n\in\mathbb N\)に対して \[n\cdot a=a\cdot n=n\] を満たす\(a\in\mathbb N\)を,乗法の単位元という.定理9.8(2)より,\(1\)は乗法の単位元である.
乗法の単位元は\(1\)だけである.
定理 9.9 の証明
\(a\in\mathbb N\)を乗法の単位元とする.定義で\(n=1\)とすると \[1\cdot a=a\cdot1=1\] である.一方,定理9.8(2)より\(1\cdot a=a\)であるから, \[a=1\cdot a=1\] となる.したがって,乗法の単位元は\(1\)だけである.
9.4 自然数の消去法則
同じ数を加えて等しくなれば,もとの数も等しい.この性質を加法の消去法則という.自然数では減法が常に定義できるわけではないため,加法の定義と帰納法から証明する.
自然数\(a,b,c\)について,\(a+c=b+c\)ならば\(a=b\)である.また,\(a+b=0\)ならば\(a=b=0\)である.
命題 9.10 の証明
前半は\(c\)についての帰納法による.\(c=0\)では明らかである. \(a+\mathrm S(c)=b+\mathrm S(c)\)ならば\(\mathrm S(a+c)=\mathrm S(b+c)\)であり,(P4)から\(a+c=b+c\)となる.帰納法の仮定により\(a=b\)である. 後半について,\(b\neq0\)ならば\(b=\mathrm S(d)\)と書け,\(a+b=\mathrm S(a+d)\neq0\)となって矛盾する.したがって\(b=0\)であり,\(a=0\)も従う.
自然数\(a,b,c\)について,\(ab=0\)ならば\(a=0\)または\(b=0\)である.また,\(c\neq0\)かつ\(ac=bc\)ならば\(a=b\)である.
命題 9.11 の証明
\(b\neq0\)ならば\(b=\mathrm S(d)\)と書けるので,\(ab=a+ad\)である.これが\(0\)ならば,命題9.10より\(a=0\)となる.
後半では\(c\neq0\)を固定し, \[P(a):\quad \forall b\in\mathbb N\; (ac=bc\Longrightarrow a=b)\] を\(a\)についての帰納法で示す.\(a=0\)のとき,\(0=bc\)ならば前半と\(c\neq0\)より\(b=0\)であるから\(P(0)\)が成り立つ.\(P(a)\)を仮定し,\(\mathrm S(a)c=bc\)とする.左辺は零でないので\(b\neq0\)であり,\(b=\mathrm S(d)\)と書ける.すると\(c+ac=c+dc\)であるから,加法の消去法則により\(ac=dc\)となる.帰納法の仮定\(P(a)\)から\(a=d\),したがって\(\mathrm S(a)=b\)である.よって\(P(\mathrm S(a))\)も成り立つ.
9.5 半群とモノイド
集合とその上の演算の組を代数系という.代数学では,個々の計算だけでなく,演算が共通して満たす法則に注目する.例えば,\(2^S\)上の合併\(\cup\)と共通部分\(\cap\)は演算である.
空でない集合\(X\)とその上の演算\(\circ\)の組\((X,\circ)\)が半群 (semigroup)であるとは,結合律 \[x\circ(y\circ z)=(x\circ y)\circ z\qquad(x,y,z\in X)\] が成り立つことをいう.さらに,すべての\(x\in X\)に対して \[e\circ x=x\circ e=x\] を満たす元\(e\in X\)を単位元という.単位元を持つ半群をモノイド (monoid)という.
単位元は存在すれば一意である.実際,\(e,e'\)がともに単位元ならば \(e=e\circ e'=e'\)となる.結合律により括弧を省けるが,交換律までは仮定していないので,元の順序を自由に入れ替えてよいわけではない.
\((\mathbb N,+)\)は単位元\(0\)を持つモノイド,\((\mathbb N,\cdot)\)は単位元\(1\)を持つモノイドである.正の自然数だけの集合\(\mathbb N\setminus\{0\}\)では,加法は半群を与えるが単位元を持たず,乗法は単位元\(1\)を持つモノイドを与える. また,\((2^S,\cup)\)の単位元は\(\emptyset\),\((2^S,\cap)\)の単位元は\(S\)である.いずれも交換律も満たす.
集合\(X\)から\(X\)への写像全体を\(\operatorname{Map}(X,X)\)と書くと,写像の合成に関してモノイドとなり,単位元は恒等写像\(\operatorname{id}_X\)である.第2章で見たように,合成は一般には交換律を満たさない.
数の加法・乗法,集合の合併・共通部分,写像の合成には,結合律と単位元に関する共通の性質がある.