14回目(付録):極値集合論
「集合$V$の部分集合を,様々な条件のもとで最大(または最小)で何個取ることができるか?」を考える理論を極値集合論 (extremal set theory)という. 例えば,$V=\{1,2,3\}$とし,$V$の部分集合で要素の個数が$2$のものは最大何個取れるか?という問題の答えは$\{1,2\},\{1,3\},\{2,3\}$の$3$個となる. もう少し一般な結果として,まず次の命題を証明する.命題 14.1
集合$V=\{1,2,\ldots,n\}$の部分集合$A_1,A_2,\ldots,A_m$が任意の$i,j$に対して$A_i \cap A_j \neq \emptyset$を満たす,つまり互いに交わるとき,$m \leq 2^{n-1}$である.また等号を満たす$A_1,A_2,\ldots,A_m$が存在する.
例えば,$\{1,2\},\{1,3\},\{2,3\}$はこの命題の条件を満たしているが,$2^{3-1}=4$個より少ない.命題の主張は$n=3$ならば条件を満たす集合の個数は必ず$4$個以下であり,さらに条件を満たす$4$個の集合が存在するということである.
証明
$\mathfrak{A}=\{A_1,A_2,\ldots,A_m\}$が命題の条件を満たすとする.$A_i$の補集合を$A_i^{\rm C}$と書いたとき,$A_i \cap A_i^{\rm C}=\emptyset$より$A_i^{\rm C} \notin \mathfrak{A}$である.特に,
\[
\mathfrak{A} \cap \{A_1^{\rm C},A_2^{\rm C},\ldots,A_m^{\rm C}\}=\emptyset
\]
となるので,
\[
m= |\mathfrak{A}| \leq 2^n/2=2^{n-1}
\]
が従う.ここで$V$の部分集合が全部で$2^n$個あることに注意する.
今,固定した$i$($i=1$を考えればよい)を含む$V$の部分集合全体からなる集合を$\mathfrak{B}$とすると,この集合族は命題の条件を満たし,$|\mathfrak{B}|=2^{n-1}$である.
次にこの命題にさらに条件を加えると$m$の値がどう変化するか見ていく.
有限集合$V$と非負整数$r \leq |V|$に対し,$r$個の元からなる$V$の部分集合(これを$r$部分集合という)全体からなる集合を$\binom{V}{r}$と書く.
例えば,$V=\{a,b,c\}$で$r=2$を考えると,
\[
\binom{V}{2}=\{\{a,b\}, \{a,c\}, \{b,c\}\}
\]
である.
また自然数$n$と非負整数$r \leq n$に対し,
\[
\binom{n}{r}=\frac{n!}{(n-r)!r!}
\]
と定義する.つまり,$\binom{n}{r}$は高校数学で登場する二項係数$_n C_r$のことである.
$_n C_r$は$n$個から$r$個選ぶ方法の総数であったことを思い出そう.すると
$|V|=n$のとき,
\[
\left|\binom{V}{r}\right|=\binom{n}{r}
\]
であることがわかる.
次の定理は極値集合論で最も有名な定理の1つである.
定理 14.2 (Erdös--Ko--Radoの定理)
$k \leq n/2$を自然数とする.集合$V=\{1,2,\ldots,n\}$の$k$部分集合$A_1,A_2,\ldots,A_m$が任意の$i,j$に対して$A_i \cap A_j \neq \emptyset$を満たすならば,$m \leq \binom{n-1}{k-1}$である.また等号を満たす$A_1,A_2,\ldots,A_m$が存在する.
例えば,$n=4$で$k=2$のとき,$\{1,2\},\{1,3\},\{1,4\},\{2,3\}$は定理の条件を満たしていない.定理の主張から,条件を満たす集合は$\binom{4-1}{2-1}=3$個以下でないといけないことからもわかる.一方で,$\{1,2\},\{1,3\},\{2,3\}$は定理の条件を満たす例の1つである.
証明
$\mathfrak{A}=\{A_1,A_2,\ldots,A_m\}$が命題の条件を満たすとする.また自然数$1 \leq i \leq n$に対して,
\[
F_i=\{i,i+1,\ldots,i+k-1\}
\]
とおく.ただし,$n$を法として考える.
例えば,$n=8$で$k=4$であれば,$F_3=\{3,4,5,6\}$であり,$F_7=\{7,8,1,2\}$である.
$\mathfrak{F}=\{F_1,\ldots,F_n\}$とおく.
まず$|\mathfrak{A} \cap \mathfrak{F}| \leq k$であることを示す.$F_i \in \mathfrak{A} \cap \mathfrak{F}$とすると,$\mathfrak{A} \cap \mathfrak{F}$の各要素は$F_i$と共通部分を持たなければならないので,$\mathfrak{A}$の性質から
\[
\mathfrak{A} \cap \mathfrak{F} \subset \{F_{i-k+1},\ldots,F_{i-1},F_i,F_{i+1},\ldots,F_{i+k-1}\}
\]
である.
ここで,$F_{i-k+\ell}$と$F_{i+\ell}$は共通部分がないので,高々その一方だけが$\mathfrak{A} \cap \mathfrak{F}$に属する.したがって,$|\mathfrak{A} \cap \mathfrak{F}| \leq k$である.
次に数字の入れ替えを考える.例えば,$1$を$2$に,$2$を$3$に,$3$を$1$に,$4$を$4$にするなど.$1$から$n$までの数字の入れ替え方法全体を$\mathfrak{S}_n$と表す($n$次対称群と呼ばれる).今,数字の入れ替え$\pi \in \mathfrak{S}_n$と$V$の部分集合(または部分集合族)$A$に対し,$A^{\pi}$で$A$に属する数字を$\pi$の方法で入れ替えてできる集合とする.例えば,$A=\{1,3,4\}$で$\pi$を上記の入れ替え方法とすると,$A^{\pi}=\{2,1,4\}=\{1,2,4\}$である.また$\pi^{-1}$で$\pi$の入れ替え方法の逆を表す.例えば,上記の入れ替え方法だと,$\pi^{-1}$は$2$を$1$に,$3$を$2$に,$1$を$3$に,$4$を$4$に入れ替える.このとき,$\pi \in \mathfrak{S}_n$に対し,
\[
|\mathfrak{A} \cap \mathfrak{F}^{\pi}|=|(\mathfrak{A}^{\pi^{-1}} \cap \mathfrak{F})^{\pi}|=|\mathfrak{A}^{\pi^{-1}} \cap \mathfrak{F}| \leq k
\]
が成り立つ.実際,1つ目の等号は集合が変わらないことから従い,2つ目の等号は数字の入れ替えによって個数が変わらないことから従う.最後の不等号は,上記の議論で$\mathfrak{A}$を$\mathfrak{A}^{-\pi}$に取り替えても成り立つからである.一方,$n$個の数字の入れ替えは方法は全部で$n!$個ある(数字の並び方の総数)ので$|\mathfrak{S}_n|=n!$である.よって
が成り立つ.
今,$\pi \in \mathfrak{S}_n$を固定する.
このとき,$\mathfrak{A} \cap \mathfrak{F}^{\pi}$の各要素$A_j$は,$A_j=F_i^{\pi}$を満たす$(A_j,F_i) \in \mathfrak{A} \times \mathfrak{F}$と1対1に対応する.
つまり,写像
は全単射である.
よって
\[
|\mathfrak{A} \cap \mathfrak{F}^{\pi}|=|\{ (A_j,F_i) \in \mathfrak{A} \times \mathfrak{F} : A_j=F_i^{\pi}\}|
\]
である.これに$\pi \in \mathfrak{S}_n$という情報も加えることで,
が従う.
次に,$A_j \in \mathfrak{A}$と$F_i \in \mathfrak{F}$を固定する.このとき,$A_j=F^{\pi}_i$となる$\pi \in \mathfrak{S}_n$の総数は$k!(n-k)!$である.
例えば,$A_j=\{1,3,6\}$と$F_i=\{2,3,4\}$であれば,$1,3,6$がそれぞれ$2,3,4$のいずれかとなり,それ以外の数字は$2,3,4$以外の数字となる.
結局$F_i$に含まれる数字の並び方と,$F_i$に含まれない数字の並び方を組み合わせることなので,上記の値が得られる.
以上より,等式(2)の値は$mn \cdot k!(n-k)!$となる.不等式(1)と合わせることで,
\[
m \leq \frac{k \cdot n!}{n \cdot k!(n-k)!}=\frac{(n-1)!}{(k-1)!((n-1)-(k-1))!}=\binom{n-1}{k-1}
\]
が得られる.
最後に,固定した$i$($i=1$を考えればよい)を含む$V$の$k$部分集合全体からなる集合を$\mathfrak{B}$とすると,この集合族は定理の条件を満たし,$|\mathfrak{B}|=\binom{n-1}{k-1}$である.
$\displaystyle \sum_{\pi \in \mathfrak{S}_n} |\mathfrak{A} \cap \mathfrak{F}^{\pi}| \leq k \cdot n!$
(1)
$\mathfrak{A} \cap \mathfrak{F}^{\pi}$
$\longrightarrow$
$\{ (A_j,F_i) \in \mathfrak{A} \times \mathfrak{F} : A_j=F_i^{\pi}\}$
$\in$
$\in$
$A_j$
$\longmapsto$
$(A_j,F_i)$
$\displaystyle \sum_{\pi \in \mathfrak{S}_n}|\mathfrak{A} \cap \mathfrak{F}^{\pi}|=|\{ (A_j,F_i,\pi) \in \mathfrak{A} \times \mathfrak{F} \times \mathfrak{S}_n : A_j=F_i^{\pi}\}|$
(2)