離散数学

9回目:単峰数列と対数凹数列

正の整数からなる有限数列$a_0,a_1,\ldots,a_n$が単峰 (unimodal)であるとは, \[ a_0 \leq a_1 \leq \cdots \leq a_j \geq a_{j+1} \geq \cdots \geq a_n \] となる$0 \leq j \leq n$が存在するときにいう.昔も今も,数え上げに関する数列が単峰になるかどうか調べることは数え上げ組合せ論の中心の1つである. 例えば,二項係数の列 \[ \binom{n}{0},\binom{n}{1},\ldots,\binom{n}{n} \] は直接計算することで単峰となることが示せる. 本節ではこの数列が単峰より強い性質を持つことを示す.
定義 9.1
正の整数からなる有限数列$a_0,a_1,\ldots,a_n$が対数凹 (log concave)であるとは,任意の$ 1 \leq j \leq n-1$に対し, \[ a_{j-1}a_{j+1} \leq a_j^2 \] を満たすときにいう.
まずは対数凹数列が単峰数列より強い性質であることを見ていく.
命題 9.2
対数凹数列は単峰である.
証明
任意の対数凹数列$a_0,a_1,\ldots,a_n$を考える.不等式 \[ a_0 \leq a_1 \leq \cdots \leq a_q \] を満たす最大の整数$q$をとる. $q=n$ならば,この数列は短調増加なので特に単峰である. そこで$q < n$とする. すると,$a_{q} > a_{q+1}$である. $q+1=n$であれば,この数列は単峰であるので,$q+1 < n$とする.凹対数性から \[ a_{q} a_{q+2} \leq a_{q+1}^2 \] を満たすので,特に \[ a_{q+2} \leq \frac{a_{q+1}^2}{a_q} < \frac{a_q a_{q+1}}{a_{q}}=a_{q+1} \] が従う. これを繰り返すと結局 \[ a_0 \leq a_1 \leq \cdots \leq a_q > a_{q+1} > a_{q+2} > \cdots > a_{n} \] が得られ,単峰性が示された.
一般に,どんな単峰数列も対数凹になるとは限らないため,対数凹は単峰性より強い性質である. それでは二項係数が対数凹であることを示そう.
定理 9.3
有限列 \[ \binom{n}{0},\binom{n}{1},\ldots,\binom{n}{n} \] は対数凹である.
証明
有限集合$[n]:=\{1,2,\ldots,n\}$の$r$元部分集合全体の集合$\binom{[n]}{r}$を$S_r$とおき, \begin{align*} M&:=S_{r-1} \times S_{r+1}=\{(A,B) : A \in S_{r-1}, B \in S_{r+1}\}\\ N&:=S_r^2=\{(A,B) : A \in S_{r}, B \in S_{r}\} \end{align*} とする. このとき,$|M|=\binom{n}{r-1}\binom{n}{r+1}, |N|=\binom{n}{r}^2$である. 定理の主張は$|M| \leq |N| $であるので,これは$M$から$N$への単射が存在することを示せばよい. ここで写像$f:A\to B$が単射であるとは$x,y \in A$が$f(x)=f(y)$を満たすならばいつでも$x=y$となるときにいうことを思い出そう. このような証明方法を組合せ論的証明と呼ぶ.

まず写像を構成する.部分集合$X \subset [n]$と整数$1 \leq j \leq n$について$X_j=X \cap [j]$とおく.$(A,B) \in M$のとき,$|B_j|-|A_j|=1$となる整数$1 \leq j \leq n$が存在する.実際,$p(j)=|B_j|-|A_j|$とおくと,$p(1) \in \{-1,0,1\}, p(n)=2$かつ任意の整数$1 \leq j \leq n-1$に対し,$p(j+1)-p(j) \in \{-1,0,1\}$であることから従う. $j$を$p(j)=1$となる最大の整数$1 \leq j \leq n$とする.さらに, \[ C=A_j \cup (B \setminus B_j), \ \ \ D=B_j \cup (A \setminus A_j) \] とおく.これは$A$と$B$の$j+1$以降の数字の集合$A \setminus A_j$と$B \setminus B_j$を入れ替えた集合である.$|B_j|-|A_j|=1$から \[ |C|=|A_j|+|B \setminus B_j|=|A_j|+(r+1)-|B_j|=r \] であり,同様に$|D|=r$である. すると,$(C,D) \in N$となることがわかる. そこで,写像$\phi : M \to N$を$\phi((A,B))=(C,D)$で定義する.以下,この写像$\phi$が単射であることを示し,定理の証明を完了させる.

$\phi((A^{(1)},B^{(1)}))=\phi((A^{(2)},B^{(2)}))=(C,D)$となる任意の$(A^{(1)},B^{(1)}), (A^{(2)},B^{(2)}) \in M$をとり,$|B^{(i)}_{j_i}|-|A^{(i)}_{j_j}|=1$となる最大の整数$1 \leq j_i \leq n$をとる.もし$j_1=j_2$ならば,写像$\phi$は$(A^{(1)},B^{(1)})$と$(A^{(2)},B^{(2)})$に対し,それぞれ$j_1+1$以降の数字を入れ替えているだけなので,入れ替えた結果が同じ$(C,D)$になるということは,入れ替える前も一緒,つまり$(A^{(1)},B^{(1)})=(A^{(2)},B^{(2)})$となる. そこで,$j_1 \neq j_2$とする.必要であれば,役割を入れ替えることで,$j_1 < j_2$としてよい. このとき,\begin{align*} C_{j_1}=A^{(1)}_{j_1}=A^{(2)}_{j_1},\ \ \ \ C \setminus C_{j_2}=B^{(1)} \setminus B^{(1)}_{j_2}=B^{(2)} \setminus B^{(2)}_{j_2}\\ D_{j_1}=B^{(1)}_{j_1}=B^{(2)}_{j_1},\ \ \ \ D \setminus D_{j_2}=A^{(1)} \setminus A^{(1)}_{j_2}=A^{(2)} \setminus A^{(2)}_{j_2} \end{align*} が成り立つ.今,$Y=\{j_1+1,j_1+2,\ldots,j_2\}$とおくと,$|A^{(1)} \cap Y|=|A^{(2)} \cap Y|, |B^{(1)} \cap Y|= |B^{(2)} \cap Y|$である.すると,$|A^{(1)}_{j_2}|=|A^{(2)}_{j_2}|, |B^{(1)}_{j_2}|=|B^{(2)}_{j_2}|$となり,$|B^{(1)}_{j_2}|-|A^{(1)}_{j_2}|=1$が従う.しかし,これは$j_1$の最大性に矛盾する.よって$\phi$の単射性が示された.
系 9.4
有限列 \[ \binom{n}{0},\binom{n}{1},\ldots,\binom{n}{n} \] は単峰である.