情報数理C

2.1:合同式の復習

合同式や同値関係の定義は情報数理Bで学習済みのため,ここでは簡単に復習する.
定義 2.1
$0$でない整数$m$に対し,整数$a$と$b$が$m$をとして合同であるとは,$a-b \in m \mathbb{Z}$となるときにいう. つまり$m|a-b$である. このとき, \[ a \equiv_m b \mbox{または} a \equiv b \ {\rm mod}\ m \] と書く.この表示を合同式という.合同でないときは$a \not\equiv_m b$や$a \not\equiv b\ {\rm mod}\ m$と書く. 法$m$が文脈から明らかのときは,単に$a \equiv b$と書くこともある.
例えば,$7 \equiv_5 2$や$7 \not\equiv_3 2$である.合同式が何を意味するかというと,これは法$m$で割ったときの余りが等しいということに他ならない.
命題 2.2
$a \equiv_m b$であることと,$a$と$b$をそれぞれ$m$で割った余りが一致することは同値である.
証明
$a$と$b$をそれぞれ$m$で割った商と余りをそれぞれ$q,q'$と$r,r'$とする.つまり, $a=mq+r,b=mq'+r'$かつ$0 \leq r,r' \lt |m|$である. ($\Rightarrow$)$a \equiv_m b$であると仮定する.このとき,$a-b \in m \mathbb{Z}$よりある整数$n$を使って$a-b=mn$と書ける.すると \[ a-b=(mq+r)-(mq'+r')=m(q-q')+(r-r')=mn \] より$r-r'=m(n-(q-q'))$となる.つまり,$r-r' \in m \mathbb{Z}$である. 余りの条件から,$0 \leq |r-r'| \lt |m|$であるので,これは$r-r'=0$,つまり$r=r'$を意味する. ($\Leftarrow$)$r=r'$を仮定する.このとき, \[ a-b=(mq+r)-(mq'+r')=m(q-q')+(r-r')=m(q-q') \in m \mathbb{Z}. \] よって$a \equiv_m b$である.
次に,同値関係の定義を復習する.
定義 2.3
$X$に対し,$X \times X$の部分集合$R$を$X$上の(二項)関係と呼ぶ.$R$を$X$上の二項関係$R$とする.記法として,$(a,b) \in R$のとき$a R b$と書く.
  • $R$が反射的であるとは,任意の$x \in X$に対して$xRx$であるときにいう.

  • $R$が対称的であるとは,任意の$a,b \in X$に対して$aRb$ならばいつでも$bRa$であるときにいう.

  • $R$が推移的であるとは,任意の$a,b,c \in X$に対して,$aRb$かつ$bRc$ならばいつでも$aRc$となるときをいう.

  • 反射的,対称的かつ推移的な二項関係を同値関係と呼ぶ.同値関係には$\sim$という記号がよく使われる.

同値関係は「何らかの意味で等しい」を意味する.もちろん通常の「等しい($=$)」は同値関係である.合同式は「余りが等しい」を意味していたので,合同式も同値関係となる.
命題 2.4
合同式$\equiv_m$を$\mathbb{Z}$上の二項関係としてみると,$\equiv_m$は同値関係である.
証明
情報数理Bの4回目を参照.
$m=\pm 1$の場合,任意の整数$a,b$に対して$a \equiv_m b$である.この場合,合同式の世界では「全ての整数は等しい」ということになるので考えるべきことはほとんどない.以降,$m$は$|m| \geq 2$を満たす整数とする.