情報数理C

2.2:合同式の演算

次に合同式の演算を見ていく.
命題 2.5
証明
仮定より整数$k,\ell$を用いて$a-b=mk, c-d=m\ell$と書ける.

(1) \[(a+c)-(b+d)=(a-b)+(c-d)=mk-m\ell=m(k-\ell) \in \mathbb{Z}\] となるので$a+c \equiv_m b+d$である. また \[ac-bd=a(c-d)+ad-bd=a(c-d)+d(a-b)=am\ell+dmk=m(a\ell+dk) \in m\mathbb{Z}\] から$ac \equiv_m bd$である.

(2) 仮定より整数$t$を用いて$m=nt$と書ける. このとき,$a-b=(nt)k=n(tk) \in n \mathbb{Z}$である.よって$a \equiv_n b$である.
系 2.6
$a,b$を$a \equiv_m b$を満たす整数とする.このとき,任意の整数$c$に対し,以下が成り立つ.
これらの結果から$\equiv_m$の世界では$+,-,\times$は「$=$」と同じように計算ができる.ただし,$\div$はできない.実際,$6 \equiv_4 2$であるが,両辺を$2$で割ると$3 \not\equiv_4 1$である. 一方で,ある条件下だと$\div$をすることができる.
命題 2.7
$c$を$0$でない整数,$a,b$を整数とし,$ac \equiv_m bc$を満たすとする. このとき以下が成り立つ.
証明
仮定から整数$n$を用いて$ac-bc=mn$と書ける.

(1) $c(a-b)=mn$であり,両辺を$c$で割ると, \[a-b=\dfrac{m}{c}n\]となる.$c | m$より$\dfrac{m}{c}$は整数であるので,$a \equiv b \ {\rm mod}\ \dfrac{m}{c}$が成り立つ.

(2) $c(a-b)=mn$から$m|c(a-b)$である.$c$と$m$は互いに素なので命題 1.11より$m | a-b$である.よって$a \equiv_m b$が成り立つ.
定義 2.8
整数$a$が法$m$に関して可逆であるとは,$ax \equiv_m 1$を満たす整数$x$が存在するときにいう. このとき,$x$を法$m$に関する$a$の逆元という.
例えば,$2 \cdot 3 \equiv_5 1$であるので,$3$は$2$の法$5$に関する逆元であり,逆に$2$は$3$の法$5$に関する逆元である. 逆元はいつでも存在するとは限らない.つまり,可逆であるとは限らない.例えば,$2$は法$4$に関して逆元を持たない(理由を考えよ).一方で,もし逆元が存在すれば,$m$を法として一意的に定まる.
命題 2.9
$a$を法$m$に関して可逆な整数とする. $x,y$がともに$a$の法$m$に関する逆元であれば,$x \equiv_m y$である.
証明
仮定より,$ax \equiv_m ay \equiv_m 1 $であるから, \[ x \equiv_m x \cdot 1 \equiv_m x(ay) \equiv_m (ax)y \equiv_m 1 \cdot y \equiv_m y \] が成り立つ.
余りの世界では,通常の整数の積では起きない不思議な現象がある.実際,$2 \not\equiv_6 0$かつ$3 \not\equiv_6 0$であるが,$2 \cdot 3 \equiv_6 0$となる.このような性質に名前をつけよう.
定義 2.10
整数$a$が法$m$に関して零因子であるとは,$az \equiv_m 0$かつ$z\not\equiv_m 0$を満たす整数$z$が存在するときにいう.
上の議論より,$2$と$3$はともに法$6$に関する零因子である. また$0$は任意の法に関する零因子である. 今定義した,逆元と零因子は実は真逆の性質である.
定理 2.11
証明
((1) $\Rightarrow$ (2)) $\gcd(a,m)=1$と系 1.10から$ax+my=1$となる整数$x,y$が存在する.このとき,$ax \equiv_m 1$であるので,$a$は法$m$に関して可逆である.

((2) $\Rightarrow$ (3)) 整数$x$を$a$の法$m$に関する逆元とする.つまり,$ax \equiv_m 1$である.今,$a$が法$m$に関して零因子であると仮定する.このとき,ある整数$z$に関して$az \equiv_m 0$かつ$z \not\equiv_m 0$である.すると, \[ z \equiv_m 1 \cdot z \equiv_m (ax)z \equiv_m x(az) \equiv_m x \cdot 0 \equiv_m 0 \] となり,矛盾する.よって$a$は法$m$に関して零因子ではない

((3) $\Rightarrow$ (1)) $d=\gcd(a,m)$とおく.このとき,整数$a',m'$を用いて$a=a'd, m=m'd$と書ける. すると, \[ am'\equiv_m (a'd)m'\equiv_m a'(m'd) \equiv_m a'm \equiv_m 0 \] となるが,仮定より$a$は法$m$に関する零因子ではないので,$m' \equiv_m 0$とならなければならない.つまり,$m' \in m \mathbb{Z}$であるので,ある整数$c$を用いて$m'=mc$と書ける.すると, $m=m'd=mcd$であるので,$cd=1$,よって$d=1$となる.
補足 2.12
命題 2.7の(2)から$m$が素数であれば,$\equiv_m$の世界では$+,-,\times,\div$の四則演算ができることがわかる.逆に,四則演算ができるのは$m$が素数のときに限ることも示せる.