情報数理C

2.3:1次合同方程式と連立1次合同方程式

1次合同式とは1次方程式の合同式版である. つまり,$a \not\equiv_m 0$を満たす整数$a$と整数$b$,および未知数$x$に対し,式 \[ ax \equiv_m b \] を考える.この方程式を解くというのは,上の合同方程式を満たす$x$を(適切な法の下で)求めることである. また$ax \equiv_m b$ならば,ある整数$y$を使って,$ax-b=my$,よって$ax-my=b$となるので,合同方程式を解くということはこの不定方程式を解くことに他ならない.

それでは,例として$2x \equiv_3 1$を解いてみよう. 系2.6より両辺を$2$倍してもよいので$4x \equiv_3 2$である.また$4 \equiv_3 1$から$4x \equiv_3 x$も成り立つ.よって解$x \equiv_3 2$を得る. 一方,合同方程式は解を持たない場合もある.例えば$2x \equiv_4 1$とすると.両辺を$1$で引くと$2x-1 \equiv_4 0$.しかし,$2x-1$は奇数なので$4$で割った余りは$0$になり得ない.よって$2x-1 \not\equiv_4 0$となり解が存在しないことがわかった.

そこで合同方程式はいつ解を持つのかを考えてみよう.
定理 2.13
$a \not\equiv_m 0$を満たす整数$a$と整数$b$に対し,合同方程式$ax \equiv_m b$が整数解を持つ必要十分条件は$d=\gcd(a,m)$としたとき,$d |b$となることである.
証明
$\gcd(a,m)=d$より整数$a',m'$を用いて$a=a'd,m=m'd$と書ける.

($\Rightarrow$)合同方程式が解$x$を持つとすると,ある整数$k$を用いて$ax-b=mk$と書ける. すると,$b=ax-mk=a'dx-m'dk=d(a'x-m'k)$であり,$ax'-m'k$は整数なので,$d | b$である.

($\Leftarrow$)$d|b$を仮定する.このとき$b \in \langle d \rangle$である.すると定理 1.8から$\langle a, m \rangle = \langle d \rangle \ni b$である.したがってある整数$x,y$を用いて$b=ax+my$と書ける.よって$b \equiv_m ax$であり,$x$が合同方程式の解となることがわかった.
この定理から合同方程式に解が存在するかどうか判定することができるが,その解が同じ法に関して一意的に書けるかはわからない.実際, $2x \equiv_6 4$を考えると,$\gcd(2,6)=2 |4$であるので,解を持つ.しかしその解は$x \equiv_6 2$と$x \equiv_6 5$の2通り出てくる.ただし,特別な状況であれば同じ法に関して解を一意的に書くことができる.
系 2.14
整数$a$が$\gcd(a,m)=1$を満たすとする.このとき,任意の整数$b$に対して合同方程式$ax \equiv_m b$は法$m$に関して一意的な整数解を持つ.
証明
定理 2.13より解の存在は従う. 一意性を示すために,$x_1,x_2$がともに$ax \equiv_m b$の整数解とする. このとき, \[ ax_1 \equiv_m b \equiv_m ax_2 \] より$a(x_1-x_2) \equiv_m 0$が成り立つ.$a$と$m$が互いに素であるので,定理2.11より$a$は法$m$に関して零因子を持たない.よって$x_1-x_2 \equiv_m 0$つまり$x_1 \equiv_m x_2$でなければならなく,一意性が示された.
次に連立1次合同方程式を考える.例えば, \[ \begin{cases} x \equiv_2 1\\ x \equiv_3 2 \end{cases} \] を解いてみよう. これは結局$x$が整数$s,t$を使って$x=2s+1=3t+2$と書けるので不定方程式$2s-3t=1$を解くことに帰着する.実際の解は整数$k$を用いて$x=6k+5$と書ける.つまり,$x \equiv_6 5$である.
定理 2.15 (中国式剰余定理)
$m,n$を$0$でない互いに素な$|m|,|n| \geq 2$を満たす整数とする.このとき,任意の整数$a,b$に対し,連立1次合同方程式 \[ \begin{cases} x \equiv_{m} a \\ x \equiv_{n} b \end{cases} \] は法$mn$に関して一意的な解を持つ.
証明
$\gcd(m,n)=1$と定理 1.9より, $\langle m,n \rangle = \langle 1 \rangle =\mathbb{Z}$である.よって$b-a \in \langle m,n \rangle$となる.これはある整数を$x_0,y_0$を使って$b-a=mx_0+ny_0$と書けることを意味する. 今,$a+mx_0=b-ny_0=x$とおく. このとき, \[ \begin{cases} x \equiv_{m} a \\ x \equiv_{n} b \end{cases} \] が成り立つので,この$x$がこの連立合同方程式の解である.

次に一意性を示す.$x_1,x_2$を連立合同方程式の整数解とする. このとき,ある整数$k_1,k_2$を用いて$x_1-a=k_1 m, x_2-a=k_2 m$と書ける.すると$x_1-x_2=(k_1-k_2)m$より$x_1-x_2$は$m$の倍数である.同様に,$x_1-x_2$は$n$の倍数でもある.一方,$m$と$n$は$0$でない互いに素な整数であるので,その最小公倍数は$mn$である.したがって,$x_1-x_2$は$mn$の倍数となる.したがって,$x_1 -x_2 \equiv_{mn} 0$,つまり$x_1 \equiv_{mn} x_2$となり,一意性が示された.