情報数理C

2.4:フェルマーの小定理

この節では,合同式に関するある公式を証明する.
定理 2.16 (フェルマーの小定理)
$p$を素数とする.$p$と互いに素な整数$a$に対して次の合同式が成り立つ: \[ a^{p-1} \equiv_p 1. \]
この定理の証明のために,補題を準備する.
補題 2.17
$k$を$0\lt k\lt p$を満たす整数とする.このとき$\binom{p}{k}$は$p$の倍数である.ただし,$\binom{p}{k}={}_p{\rm C}_k=\dfrac{p!}{k!(p-k)!}$は二項係数である.
証明
$\binom{p}{k} =\dfrac{p!}{k!(p-k)!} \in \mathbb{Z}$であり,$0\lt k\lt p$から$0\lt p-k\lt p$であるので,約分したときに分子の$p$は生き残る.よって$\binom{p}{k}$は$p$の倍数である.
補題 2.18
整数$a_1,\ldots, a_n$と素数$p$に対して, \[ (a_1+\cdots+a_n)^p \equiv_p a_1^p+\cdots+a_n^p \] が成り立つ.
証明
$n$に関する帰納法で示す.$n=1$の時は明らか. $n \geq 2$を仮定する. $x=a_1+\cdots+a_{n-1}$として,二項展開すると \[ (a_1+\cdots+a_n)^p=(x+a_n)^p = \binom{p}{0} x^p a_n^0 + \binom{p}{1} x^{p-1}a_n^1 + \cdots + \binom{p}{p-1} x^1 a_n^{p-1} +\binom{p}{0} x^0 a_n^p \] である.一方,補題 2.17より$0 \lt k \lt p$に対して,$\binom{p}{k} \equiv_p 0$である.よって \[ (x+a_n)^p \equiv_p x^p + a_n^p \] が成り立つ. また帰納法の仮定より \[ x^p=(a_1+\cdots+a_{n-1})^p \equiv_p a_1^p +\cdots+a_{n-1}^p \] である.以上より, \[ (x+a_n)^p \equiv_p x^p + a_n^p \equiv_p a_1^p +\cdots+a_{n-1}^p + a_n^p \] が成り立つので,帰納法より主張が示された.
補題 2.19
整数$n$と素数$p$に対して, \[ n^p \equiv_p n \] が成り立つ.
証明
$n=0$のときは明らかである.$n \geq 1$とする. 補題 2.18で$a_1=\cdots=a_n=1$の場合を考えると, \[ (\underbrace{1+\cdots+1}_n)^p \equiv_p \underbrace{1^p+\cdots+1^p}_n \] となるから,$n^p \equiv_p n$である.

次に$n\lt 0$とする.$k=-n$とおくと,$k > 0$より上の証明から $k^p \equiv_p k$である. すると \begin{align*} -n = k \equiv_p k^p \equiv_p (-n)^p \equiv_p (-1)^p n^p \end{align*} となる.ここで,$(-1)^p \equiv_p -1$が任意の素数$p$で成り立つ($p=2$の場合のみ注意する). よって$-n \equiv_p (-1) n^p$である.この両辺に$-1$をかけることで$n^p \equiv_p n$を得る.
以上よりフェルマーの小定理の証明の準備が終わった.
定理 2.16の証明
命題 2.7と補題 2.19より従う.