3.2:群の定義
それでは群の定義を紹介する.定義 3.4
$G$を空ではない集合,$\circ$を$G$上の演算とする.このとき,対$(G,\circ)$が群 (group)であるとは,以下の条件を満たすときにいう.
- (G1) (結合律)任意の$a,b,c$に対し,$(a\circ b) \circ c =a\circ(b\circ c)$が成り立つ.
- (G2) (単位元の存在)ある元$e$で,任意の元$a$に対して$a \circ e = e \circ a=a$を満たすものが存在する.このとき$e$を$G$の$\circ$に関する単位元という.
- (G3) (逆元の存在) 任意の$a$に対して,ある元$h \in G$が存在して$a \circ h=h \circ a = e$を満たすものが存在する.このとき,$h$を$a$の$\circ$に関する逆元という.また$a$の逆元を$a^{-1}$と書く.
補足 3.5
(1) もし$(G, \circ)$が(G1)のみを満たすときは半群 (semigroup)といい,(G1)と(G2)を満たすときはモノイド (monoid)という.
(2) 群の演算は基本的に「積」または「乗法」と呼ぶ.また$a \circ b$を単に$ab$と書くこともある.さらに$n \in \mathbb{Z}$に対し \[a^n=\begin{cases}\underbrace{a \circ a \circ \cdots \circ a}_{n個} & (n > 0)\\ e & (n=0)\\ \underbrace{a^{-1} \circ a^{-1} \circ \cdots \circ a^{-1}}_{-n個} & (n \lt 0) \end{cases}\]と表記する.このとき,任意の整数$n,m$に対し \begin{align*} a^{n} \circ a^{m}=a^{n+m}\\ a^{nm}=(a^n)^m \end{align*} が成り立つことは簡単に証明できる. ただし, \[ (a\circ b)^n = a^n \circ b^n \] は一般に成り立たないことに注意する($a\circ b=b \circ a$とは限らないから).
(3) もし演算の記号として$+$を使う場合,逆元は$a^{-1}$の代わりに$-a$を使うことが多い.またこのとき,$a^n$の代わりに$n\cdot a$と書き,$n\cdot a+m\cdot a=(n+m)\cdot a$が成り立つ.
(2) 群の演算は基本的に「積」または「乗法」と呼ぶ.また$a \circ b$を単に$ab$と書くこともある.さらに$n \in \mathbb{Z}$に対し \[a^n=\begin{cases}\underbrace{a \circ a \circ \cdots \circ a}_{n個} & (n > 0)\\ e & (n=0)\\ \underbrace{a^{-1} \circ a^{-1} \circ \cdots \circ a^{-1}}_{-n個} & (n \lt 0) \end{cases}\]と表記する.このとき,任意の整数$n,m$に対し \begin{align*} a^{n} \circ a^{m}=a^{n+m}\\ a^{nm}=(a^n)^m \end{align*} が成り立つことは簡単に証明できる. ただし, \[ (a\circ b)^n = a^n \circ b^n \] は一般に成り立たないことに注意する($a\circ b=b \circ a$とは限らないから).
(3) もし演算の記号として$+$を使う場合,逆元は$a^{-1}$の代わりに$-a$を使うことが多い.またこのとき,$a^n$の代わりに$n\cdot a$と書き,$n\cdot a+m\cdot a=(n+m)\cdot a$が成り立つ.
例 3.6
(1) $\mathbb{Z}$上の通常の和$+$を考えると,$(\mathbb{Z},+)$は群となる.
実際,
(G1)は明らか.(G2)は$e=0$とすると,任意の整数$a$に対して,$a+0=0+a=a$なので,単位元が存在する.
(G3)は整数$a$に対して,$-a$を考えると$a+(-a)=(-a)+(a)=0=e$となり$a$は逆元を持つ.
(2) $(\mathbb{Z}, \cdot)$は(G3)が成り立たないので群ではない.実際,$e=1$が$\cdot$に関する単位元となるが,$a=2$に対して,$a \cdot b = b \cdot a =1$を満たす整数$b \in \mathbb{Z}$は存在しない.つまり,$2$は逆元を持たないので(G3)が成り立たない.一方,(G1)と(G2)は満たすので,$(\mathbb{Z},\cdot)$はモノイドとなる.
(3) $\mathbb{R}^{\times}:=\mathbb{R}\setminus \{0\}$とし,$\mathbb{R}^{\times}$上の通常の積$\cdot$を考えると,$(\mathbb{R}^{\times},\cdot)$は群となる. (G1)は明らか.(G2)は$e=1$とすると,任意の$a \in \mathbb{R}^{\times}$に対して,$a\cdot 1=1 \cdot a=a$なので,単位元が存在する. (G3)は$a \in \mathbb{R}^{\times}$に対して,$\dfrac{1}{a}$を考えると$a \cdot \dfrac{1}{a}= \dfrac{1}{a} \cdot a=1=e$となり$a$は逆元を持つ.
(4) $(\mathbb{N},+)$は$0$を自然数とすればモノイド,$0$が自然数でないとすれば半群となる.
以降,断らない限り,$\mathbb{Z}$を群として扱うときは群$(\mathbb{Z},+)$を考える.
(2) $(\mathbb{Z}, \cdot)$は(G3)が成り立たないので群ではない.実際,$e=1$が$\cdot$に関する単位元となるが,$a=2$に対して,$a \cdot b = b \cdot a =1$を満たす整数$b \in \mathbb{Z}$は存在しない.つまり,$2$は逆元を持たないので(G3)が成り立たない.一方,(G1)と(G2)は満たすので,$(\mathbb{Z},\cdot)$はモノイドとなる.
(3) $\mathbb{R}^{\times}:=\mathbb{R}\setminus \{0\}$とし,$\mathbb{R}^{\times}$上の通常の積$\cdot$を考えると,$(\mathbb{R}^{\times},\cdot)$は群となる. (G1)は明らか.(G2)は$e=1$とすると,任意の$a \in \mathbb{R}^{\times}$に対して,$a\cdot 1=1 \cdot a=a$なので,単位元が存在する. (G3)は$a \in \mathbb{R}^{\times}$に対して,$\dfrac{1}{a}$を考えると$a \cdot \dfrac{1}{a}= \dfrac{1}{a} \cdot a=1=e$となり$a$は逆元を持つ.
(4) $(\mathbb{N},+)$は$0$を自然数とすればモノイド,$0$が自然数でないとすれば半群となる.
定義 3.7
$G$を群とする.$G$がアーベル群 (abelian group)または可換群 (commutative group)であるとは,条件
\[
{\rm (G4)} \mbox{(交換律)任意の$a,b \in G$に対し$a \circ b= b \circ a$}
\]
を満たすときにいう.
群$(\mathbb{Z},+)$や$(\mathbb{R}^{\times},\cdot)$は交換律が成り立つのでアーベル群である.
それではアーベル群ではない群の例を見る.
例 3.8
正則な,つまり逆行列を持つ$2$次正方行列全体の集合を${\rm GL}_2(\mathbb{R})$と書く.通常の行列の積$\cdot$を考えると$({\rm GL}_2(\mathbb{R}),\cdot)$は群となる(確かめよ).しかし,(G4)を満たさないのでアーベル群ではない.実際,
\[
A=\begin{pmatrix}
1 & 2\\ 3 &4
\end{pmatrix}, B=\begin{pmatrix}
1 & 0 \\ 3 & -2
\end{pmatrix}
\]
とすると,$A,B \in {\rm GL}_2(\mathbb{R})$であるが,$AB \neq BA$である.