離散数学特論

 

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0回目:イントロダクション

離散数学や組合せ論の分野の中に,数え上げ数学というものがある.字の如く,数学的な対象の何かを数え上げることを研究する分野である.高校数学だと場合の数という単元が当てはまるであろう.一見,ただ個数を数え上げているだけに思えることが,実は様々な普遍的な関係式や,数学的な対象の性質に繋がったりする.この講義では,特に(凸多角形を含む)凸多面体に関する数え上げ数学を学ぶ.

凸多面体に関する数え上げ数学は主に2つあり,1つは面の個数を数え上げること,もう1つは格子点の個数を数え上げることである.面の数え上げに関する有名な結果はオイラーの多面体定理であろう. これは凸多面体$\mathcal{P}$の頂点の個数を$v$,辺の個数を$e$,面の個数を$f$とすると, \[ v-e+f=2 \] という関係式が成り立つ,という結果である. 一方で,格子点の数え上げに関する有名な結果はピックの定理である. $xy$平面$\mathbb{R}^2$において,格子点とは$x$座標も$y$座標も整数となる点のことである. 特に,全ての頂点が格子点となるような凸多角形のことを格子凸多角形という. 格子凸多角形$\mathcal{P} \subset \mathbb{R}^2$に対し,その辺に含まれる格子点の個数を$b$,内部に含まれる格子点の個数を$i$としたとき, \[ \mbox{$\mathcal{P}$の面積}=i+\dfrac{b}{2}-1 \] という公式が成り立つ.この結果をピックの定理という.

本講義ではこの2つの数え上げ数学の定理を一般次元の凸多面体へ拡張する. 特に,次の2つの定理の証明を目的とする.
定理 0.1 (オイラーの多面体定理)
$\mathcal{P}$ を次元$d \geq 2$の凸多面体とし,$0 \leq i \leq d-1$に対し,$f_i$を$\mathcal{P}$の$i$次元の面の個数とする.このとき, \[ f_0-f_1+f_2-\cdots+(-1)^{d-1} f_{d-1}=1+(-1)^{d-1} \] が成り立つ.
定理 0.2 (エルハートの基本定理)
$\mathcal{P} \subset \mathbb{R}^d$を$d$次元の格子凸多面体とし,正の整数$n$に対し,$L_{\mathcal{P}}(n)$で$\mathcal{P}$を$n$倍に「膨らました」凸多面体$n\mathcal{P}$, $L^*_{\mathcal{P}}(n)$でその内部に含まれる格子点の個数とする.このとき,$L_{\mathcal{P}}(n)$は定数項を$1$とする変数$n$の$d$次多項式であり,$n^d$の係数は$\mathcal{P}$の体積に一致する.さらに \[ L^*_{\mathcal{P}}(n)=(-1)^d L_{\mathcal{P}}(-n), \ \ n=1,2,3,\ldots \] が成り立つ.
まず一般次元の凸多面体と面の定義,またそれらに関する基本的な性質を紹介する.一般次元の凸多面体の命題は,主張自体は想像しやすく,直感的に正しいこともわかるが,証明はかなり複雑である.そこで本講義では凸多面体の基本的な命題の証明は省略し,数え上げ数学に関する命題の証明を重点的に行う.