情報数理演習A

11回目:単射と全射

11.1 単射と全射

写像$f : X \rightarrow Y$が全射 (surjective) または上への写像 (onto) であるとは, 任意の$y \in Y$に対し,$y=f(x)$を満たす$x \in X$が存在するときにいう.つまり,どんな$Y$の要素も$f$によって対応があるということである. 論理式で書くと次の命題が真となる: \[\forall y \in Y, \exists x \in X ( y=f(x))\]これは${\rm Im}(f)=Y$と同値である. $f$が全射であることを$f : X \twoheadrightarrow Y$で表す.
写像$f : X \rightarrow Y$が単射 (injective) または1対1 (one-to-one)であるとは, 任意の2つの$x_1 ,x_2 \in X$に対し,$x_1 \neq x_2$ならば$f(x_1) \neq f(x_2)$となるときにいう. つまり,$X$の各要素は,$f$によって異なる$Y$の要素に対応するということである. 論理式で書くと \[\forall x_1, x_2 \in X ( x_1 \neq x_2 \rightarrow f(x_1) \neq f(x_2))\]が真となることである. 対偶を考えれば, \[\forall x_1, x_2 \in X ( f(x_1) = f(x_2) \rightarrow x_1 = x_2)\] である. つまり,$Y$のある要素が$f$によって対応していれば,対応する$X$の要素はただ1つ(一意的)に定まるということである.$f$が単射であることを$f :X \hookrightarrow Y $で表す.
写像$f : X \rightarrow Y$が全射かつ単射であるとき,全単射 (bijective) または1対1対応(one-to-one correspondence)と呼ぶ.
1対1と言ったときに,単射だけなのか,全単射を指しているのか紛らわしいことがあるので教科書を読むときは注意しよう.

11.2 逆像と逆写像

写像$f : X \to Y$を考える.
$Y$の部分集合$B$に対し,集合$f^{-1}(B) \subset X$を \[ f^{-1} (B)=\{ x \in X : f(x) \in B \} \] で定義する.つまり$f$に対応する$Y$の要素が$B$に含まれる$X$の要素全体の集合である.これを$f$による$B$の逆像 (inverse image) という.ただし,$f^{-1}(\emptyset)=\emptyset$としておく.
この定義の中で,$f^{-1}$はただの記号で,写像を表していないことに注意する(通常$f^{-1}(B)$ではじめて意味を持つ).

今,$f: X \to Y$を全単射な写像と仮定する.このとき,$y \in Y$とすると,$f$は全射であるから,$y=f(x)$となるような$x \in X$が存在し,さらに$f$が単射であるから,このような$x$は一意的である. つまり \[ \forall y \in Y, \exists x \in X ( f^{-1}(\{y\})=\{x\}) \] が成り立つ. このとき,
この$y$から$x$の対応,つまり $y \mapsto x$は$Y$から$X$の写像を定め,それを$f^{-1} : Y \to X$と表し,$f$の逆写像 (inverse map) という.
この場合,上で定義した「$f$による$B$の逆像$f^{-1}(B)$」と,$f^{-1}$を写像として見たときの「$f^{-1}$による$B$の像$f^{-1}(B)$」は一致する.また$f$が全単射でないと,$f^{-1}$は写像として見ること(定義)ができない.$f$が全単射であれば$f^{-1}$という記号だけでも意味を持つのである.
集合$A$のある要素$a$を同じ要素$a$に対応させる写像${\rm id}_A : A \to A, a \mapsto a$のことを$A$の恒等写像 (identity map)という.
$f: X \to Y$が全単射のとき,すべての$x \in X$に対し,$(f^{-1} \circ f) (x) =x$が成り立ち,すべての$y \in Y$に対し,$(f \circ f^{-1}) (y)=y$が成り立つ.つまり,$f^{-1} \circ f={\rm id}_{X}$かつ$f \circ f^{-1}={\rm id}_Y$である.逆写像を正確に定義すると,
写像$f : X \to Y$に対し,写像$g : Y \to X$で$g \circ f ={\rm id}_X$かつ$f \circ g={\rm id}_Y$となるものを$f$の逆写像と呼び,$f^{-1}$と書く.
実は写像$f$が全単射になることと,$f$が逆写像を持つことは同値である.
命題 11.1
写像$f:X \to Y$が全単射であることと,$g \circ f ={\rm id}_X$かつ$f \circ g={\rm id}_Y$を満たす写像$g: Y \to X$が存在することは同値である.特に$f$が全単射ならば$f^{-1}$も全単射であり,$(f^{-1})^{-1}=f$となる.
証明
$\Rightarrow$の証明は上の説明通りである.$\Leftarrow$を示すために$g \circ f ={\rm id}_X$かつ$f \circ g={\rm id}_Y$を満たす写像$g: Y \to X$が存在したと仮定する.

(全射性)任意の要素$y \in Y$をとる.$f \circ g ={\rm id}_Y$より,$(f \circ g)(y)=f(g(y))=y$である.よって$f(x)=y$を満たす$x \in X$として$g(y) \in X$が見つかり,$f$は全射となる.

(単射性)$f(x_1)=f(x_2)$を満たす$x_1,x_2 \in X$を任意にとる.$g \circ f={\rm id}_X$より,\[x_1=(g \circ f)(x_1)=g(f(x_1))=g(f(x_2))=(g \circ f)(x_2)=x_2\]となり,$f$は単射となる.

以上より$f$は全単射である.