12. 濃度
12.1 有限集合の濃度
有限集合\(A\)がちょうど\(n\)個の要素を持つとき,その要素数を表す記号\(|A|\)を \[|A|:=n\] によって定める.この数\(n\)を\(A\)の濃度 (cardinality) という.
例えば,\(A=\{a,b,c,d\}\)なら\(|A|=4\)であり,\(|\emptyset|=0\)である.また,\(A\)の要素の名前や並べ方を変えても濃度は変わらない.
有限集合\(A,B\)が互いに素ならば, \[|A\cup B|=|A|+|B|\] である.
命題 12.2 の証明
\(A\)の要素を\(a_1,\ldots,a_m\),\(B\)の要素を\(b_1,\ldots,b_n\)とする.\(A\cap B=\emptyset\)なので,これら\(m+n\)個の要素に重複はない.したがって\(A\cup B\)はちょうど\(m+n\)個の要素を持ち,\(|A\cup B|=m+n=|A|+|B|\)である.
有限集合\(A,B\)について, \[|A\cup B|=|A|+|B|-|A\cap B|\] である.
命題 12.3 の証明
\(A\)は互いに素な二つの集合\(A\setminus B\)と\(A\cap B\)の合併なので,命題12.2より \[|A|=|A\setminus B|+|A\cap B|.\] また\(A\setminus B\)と\(B\)も互いに素で,その合併は\(A\cup B\)なので \[|A\cup B|=|A\setminus B|+|B|.\] 第1式から\(|A\setminus B|=|A|-|A\cap B|\)を得て第2式に代入すれば結論が従う.
例えば,40人のクラスで,英語を履修している学生が25人,数学を履修している学生が20人,両方を履修している学生が10人だとする.少なくとも一方を履修している学生は \[25+20-10=35\] 人である.共通部分の10人を二重に数えているので,一度引く必要がある.
有限集合\(A,B\)について, \[|A\times B|=|A|\,|B|\] である.
命題 12.4 の証明
\(|A|=m\),\(|B|=n\)とする.\(A=\emptyset\)または\(B=\emptyset\)なら,命題9.4より\(A\times B=\emptyset\)であり,両辺はともに\(0\)である.
そこで\(A,B\)がともに空集合でないとする.\(A=\{a_1,\ldots,a_m\}\)と書く.各\(i\)について, \[\{a_i\}\times B\] は\(n\)個の要素を持ち,異なる\(i\)に対するこれらの集合は互いに素である.さらに \[A\times B=\bigcup_{i=1}^{m}(\{a_i\}\times B)\] である.命題12.2を繰り返し用いると,\(|A\times B|=n+\cdots+n=mn\)である.
自然数\(n,k\)が\(0\leq k\leq n\)を満たすとする.\(n\)個の要素を持つ集合から\(k\)個の要素を選んでできる部分集合の個数を \[\binom{n}{k}\] と書き,二項係数という.
\(|A|=n\)である有限集合\(A\)について, \[|2^A|=2^n\] である.
命題 12.6 の証明
\(A=\{a_1,\ldots,a_n\}\)とする.\(A\)の部分集合\(B\)を一つ作るには,各\(a_i\)について「\(B\)に入れる」「\(B\)に入れない」の2通りから一つを選べばよい.\(n\)個の要素について独立に2通りの選択があるので,部分集合は全部で\(2^n\)個である.したがって\(|2^A|=2^n\)である.
数\(a_0,a_1,\ldots,a_n\)の和を簡潔に表すため, \[\sum_{k=0}^{n}a_k:=a_0+a_1+\cdots+a_n\] と書く.記号\(\sum\)を総和記号という.添字の始点が\(1\)の場合なども同様に用いる.
自然数\(n\)について, \[\sum_{k=0}^{n}\binom{n}{k}=2^n\] である.
系 12.7 の証明
\(n\)個の要素を持つ集合\(A\)の冪集合\(2^A\)を,部分集合の要素数\(k\)ごとに分類する.\(k\)個の要素を持つ部分集合は\(\binom nk\)個あり,異なる\(k\)に属する分類は互いに重ならない.したがって \[|2^A|=\sum_{k=0}^{n}\binom nk.\] 命題12.6より左辺は\(2^n\)なので結論を得る.
三つの有限集合では,二つの場合の式を繰り返すと \[|A\cup B\cup C| =|A|+|B|+|C|-|A\cap B|-|A\cap C|-|B\cap C|+|A\cap B\cap C|\] となる.二つずつの共通部分を引くと,三つすべてに属する要素を引きすぎるため,最後に三つの共通部分を一度足し戻している.
発展. 同じ考え方を\(n\)個の集合に拡張すると次の公式を得る.
正の整数\(n\)と有限集合\(A_1,\ldots,A_n\)について, \[\begin{aligned} \left|\bigcup_{i=1}^{n}A_i\right| ={}&\sum_{i=1}^{n}|A_i|-\sum_{1\leq i<j\leq n}|A_i\cap A_j| +\sum_{1\leq i<j<k\leq n}|A_i\cap A_j\cap A_k|-\cdots\\ &\quad+(-1)^{n-1}|A_1\cap\cdots\cap A_n|. \end{aligned}\]
命題 12.8 の証明
右辺で各要素が何回数えられるかを調べる.\(x\in\bigcup_{i=1}^{n}A_i\)がちょうど\(r\)個の集合\(A_i\)に属するとする.第1項では\(x\)は\(r\)回数えられる.二つの共通部分を引く項では\(\binom r2\)回引かれ,三つの共通部分を足す項では\(\binom r3\)回足される.したがって\(x\)の係数は \[\binom r1-\binom r2+\binom r3-\cdots+(-1)^{r-1}\binom rr\] である.これが\(1\)になることを示せばよい.
\(r\)個の要素を持つ集合\(R\)を一つとり,特定の要素\(a\in R\)を固定する.\(R\setminus\{a\}\)の各部分集合\(B\)に対して,\(B\)と\(B\cup\{a\}\)を一組にする.この二つは要素数が1だけ異なるので,一方は偶数個,他方は奇数個の要素を持つ.また\(R\)のすべての部分集合はこのような組のいずれかにただ一度現れる.したがって,偶数個の要素を持つ部分集合と奇数個の要素を持つ部分集合の個数は等しい.よって \[\binom r0-\binom r1+\binom r2-\cdots+(-1)^r\binom rr=0.\] \(\binom r0=1\)を移項すれば,上の\(x\)の係数が\(1\)であることが分かる.したがって,右辺では合併に属する各要素がちょうど1回ずつ数えられるので,式が成り立つ.
12.2 写像による濃度の比較
有限集合\(X,Y\)について,次が成り立つ.
\(|X|\leq|Y|\)であるための必要十分条件は,単射\(f:X\to Y\)が存在することである.
\(Y\neq\emptyset\)とする.このとき,\(|X|\geq|Y|\)であるための必要十分条件は,全射\(f:X\to Y\)が存在することである.
\(|X|=|Y|\)であるための必要十分条件は,全単射\(f:X\to Y\)が存在することである.
また,\(Y=\emptyset\)のとき,\(X\)から\(Y\)への全射が存在するための必要十分条件は\(X=\emptyset\)である.
定理 12.9 の証明
\(|X|=n\),\(|Y|=m\)とする.
(1) \(n\leq m\)とする.\(n=0\)なら\(X=\emptyset\)であり,空集合から\(Y\)への写像は単射である.\(n>0\)なら\(X=\{x_1,\ldots,x_n\}\)とし,\(Y\)から異なる\(n\)個の要素\(y_1,\ldots,y_n\)を選んで\(f(x_i)=y_i\)と定めれば単射が得られる.逆に単射\(f:X\to Y\)が存在すれば,\(X\)の異なる\(n\)個の要素は\(Y\)の異なる\(n\)個の要素に移るので\(n\leq m\)である.
(2) \(Y\neq\emptyset\)なので\(m\geq1\)である.\(n\geq m\)とする.\(X=\{x_1,\ldots,x_n\}\),\(Y=\{y_1,\ldots,y_m\}\)と書き,\(f(x_i)=y_i\) \((1\leq i\leq m)\),\(i>m\)では\(f(x_i)=y_m\)と定めれば\(f\)は全射である.逆に全射\(f:X\to Y\)が存在するとする.\(Y\)の各要素\(y_i\)に対して\(f(x_i)=y_i\)となる\(x_i\in X\)を一つ選ぶ.\(y_i\)が異なるので\(x_i\)も互いに異なる.したがって\(X\)には少なくとも\(m\)個の要素があり,\(n\geq m\)である.
(3) \(n=m\)とする.\(n=0\)なら\(X=Y=\emptyset\)であり,空集合から空集合への唯一の写像は全単射である.\(n>0\)なら(1)で\(f(x_i)=y_i\)と定めた写像は全単射である.逆に全単射\(f:X\to Y\)が存在すれば,(1)から\(n\leq m\)である.逆写像\(f^{-1}:Y\to X\)も単射なので,再び(1)から\(m\leq n\)である.よって\(n=m\)である.
最後に\(Y=\emptyset\)とする.\(X=\emptyset\)なら空集合から空集合への写像は全射である.\(X\neq\emptyset\)なら\(x\in X\)に対応させる\(Y\)の要素が存在しないので,そもそも写像\(X\to\emptyset\)が存在しない.したがって全射も存在しない.
集合\(X,Y\)について,次が成り立つ.
\(Y\)が有限集合で,単射\(f:X\to Y\)が存在するならば,\(X\)も有限集合である.
\(X\)が有限集合で,全射\(f:X\to Y\)が存在するならば,\(Y\)も有限集合である.
命題 12.10 の証明
(1) \(Y=\{y_1,\ldots,y_m\}\)とする.\(f\)が単射なので,各\(y_i\)に対して\(f(x)=y_i\)を満たす\(x\in X\)は高々一つである.各\(x\in X\)について\(f(x)\)は\(y_1,\ldots,y_m\)のいずれかであり,単射性から一つの\(y_i\)に二つ以上の\(X\)の要素が対応することはない.したがって\(X\)の要素は高々\(m\)個である.よって\(X\)は有限集合である.
(2) \(X=\{x_1,\ldots,x_n\}\)とする.\(f\)が全射なので,\(Y\)のすべての要素は\(f(x_1),\ldots,f(x_n)\)のいずれかである.したがって\(Y\)の要素は高々\(n\)個であり,\(Y\)は有限集合である.
有限集合\(X,Y\)が\(|X|=|Y|\)を満たすとする.写像\(f:X\to Y\)について,次の三条件は同値である.
\(f\)は単射である.
\(f\)は全射である.
\(f\)は全単射である.
系 12.11 の証明
\(f\)が単射なら,\(X\)の\(|X|=|Y|\)個の要素は\(Y\)の互いに異なる\(|Y|\)個の要素に移るので,\(Y\)のすべての要素が像に現れ,\(f\)は全射である.全射なら,同じ濃度の\(Y\)の各要素に少なくとも一つの\(X\)の要素が対応するので,異なる二つの\(X\)の要素が同じ\(Y\)の要素に対応すると別の\(Y\)の要素に対応する元が不足する.したがって単射でもある.よって(1),(2),(3)は同値である.
有限集合\(X,Y\)が\(|X|>|Y|\)を満たすならば,どの写像\(f:X\to Y\)も単射ではない.すなわち,異なる\(x_1,x_2\in X\)で\(f(x_1)=f(x_2)\)となるものが存在する.
系 12.12 の証明
もし単射\(f:X\to Y\)が存在すれば,定理12.9(1)より\(|X|\leq|Y|\)となり,仮定に矛盾する.したがって単射は存在しない.単射でないことは,異なる二つの要素が同じ像を持つことを意味する.
例えば,13人の人がいれば,同じ月に生まれた2人が必ず存在する.各人に誕生月\(1,\ldots,12\)を対応させる写像を考えると,13個の要素から12個の要素への写像なので単射にはなれないからである.
有限集合\(X,Y\)が\(|X|=n\),\(|Y|=m\)を満たすとする.\(n\geq1\)なら,\(X\)から\(Y\)への写像は全部で\(m^n\)個ある.また\(n=0\),すなわち\(X=\emptyset\)なら,\(X\)から\(Y\)への写像はちょうど1個である.
命題 12.13 の証明
まず\(n\geq1\)とし,\(X=\{x_1,\ldots,x_n\}\)とする.写像\(f:X\to Y\)を定めるには,各\(x_i\)に対応させる\(f(x_i)\in Y\)を一つ選べばよい.各\(i\)について\(m\)通りの選択肢があり,\(n\)個の要素について独立に選べるので,写像は\(m^n\)個ある.
\(n=0\)なら\(X=\emptyset\)である.定義域に要素がないため,何も対応させない規則がただ一つ存在し,これが空集合から\(Y\)への唯一の写像である.
正の整数\(n\)に対して, \[n!=1\cdot2\cdots n\] と定める.また\(0!=1\)と定める.
\(|X|=n\),\(|Y|=m\)とする.
\(1\leq n\leq m\)なら,単射\(f:X\to Y\)の個数は \[m(m-1)\cdots(m-n+1)=\frac{m!}{(m-n)!}\] である.\(n=0\)なら,\(X\)から\(Y\)への単射はちょうど1個である.
\(n=m\)なら,全単射\(f:X\to Y\)の個数は\(n!\)である.
命題 12.15 の証明
まず\(1\leq n\leq m\)とし,\(X=\{x_1,\ldots,x_n\}\)とする.単射を作るとき,\(f(x_1)\)は\(m\)通りから選べる.\(f(x_2)\)は\(f(x_1)\)と異ならなければならないので\(m-1\)通り,以下同様に\(f(x_k)\)はそれまでに使った\(k-1\)個を除いた\(m-k+1\)通りから選べる.したがって積をとれば(1)の公式を得る.\(n=0\)なら\(X=\emptyset\)であり,命題12.13より写像はちょうど1個である.これは単射である.
(2) \(n=m\geq1\)なら,\(X\)から\(Y\)への単射は定理12.9と系12.11により全単射であり,(1)の個数は\(n!\)となる.\(n=m=0\)なら,空集合から空集合への唯一の写像が全単射であり,\(0!=1\)なので同じ公式が成り立つ.