4. 推論規則
含意\(P\to Q\)は一つの命題であり,\(P,Q\)の真理値が決まればその真理値も決まる.これに対して,数学の証明では「ある仮定から別の主張を導くことができる」という関係を扱う.
4.1 推論
命題\(P,Q\)に対して,含意\(P\to Q\)が恒真命題であるとき,\(P\)から\(Q\)が導かれる,または\(P\)から\(Q\)を推論できるといい, \[P\Rightarrow Q\] と書く.
したがって,\(P\Rightarrow Q\)は「\(P\)が真であるすべての場合に\(Q\)も真である」という意味である.記号\(\Rightarrow\)は\(P,Q\)から新しい命題を作る記号ではなく,\(P\)と\(Q\)の間にこの関係が成り立つことを表す.
次の推論は,対応する含意の真理値表を作れば直接確認できる.
命題\(P,Q\)について, \[P\land Q\Rightarrow P, \qquad P\land Q\Rightarrow Q,\] \[P\Rightarrow P\lor Q, \qquad Q\Rightarrow P\lor Q\] が成り立つ.
命題\(P,Q\)について, \[P\land(P\to Q)\Rightarrow Q\] が成り立つ.
これは「\(P\)が成り立ち,さらに\(P\)ならば\(Q\)であるなら,\(Q\)が成り立つ」という最も基本的な推論であり,分離規則という.
命題\(P,Q\)について, \[(P\to Q)\land\lnot Q\Rightarrow\lnot P\] が成り立つ.
命題 4.4 の証明
\(P\to Q\)と\(\lnot Q\)が真であるとする.もし\(P\)が真ならば,分離規則によって\(Q\)が真となり,\(\lnot Q\)が真であることに反する.したがって\(P\)は偽であり,\(\lnot P\)が真である.
命題\(P,Q\)について, \[(P\lor Q)\land\lnot P\Rightarrow Q\] が成り立つ.
命題 4.5 の証明
\(P\lor Q\)と\(\lnot P\)が真であるとする.\(\lnot P\)が真なので\(P\)は偽である.それでも\(P\lor Q\)が真であるためには,\(Q\)が真でなければならない.
命題\(P,Q,R\)について, \[(P\to R)\land(Q\to R)\land(P\lor Q)\Rightarrow R\] が成り立つ.
命題 4.6 の証明
\(P\lor Q\)が真なので,\(P,Q\)の少なくとも一方は真である.\(P\)が真なら\(P\to R\)と分離規則から\(R\)が真である.\(Q\)が真の場合も\(Q\to R\)から\(R\)が真である.したがってどちらの場合にも\(R\)が成り立つ.
4.2 必要条件と十分条件
\(P\Rightarrow Q\)が成り立つとき,\(P\)を\(Q\)の十分条件,\(Q\)を\(P\)の必要条件という.さらに\(P\Rightarrow Q\)と\(Q\Rightarrow P\)の両方が成り立つとき,\(P\)と\(Q\)は互いに必要十分条件であるという.
命題\(P,Q\)について,\(P\Longleftrightarrow Q\)であることと, \[P\Rightarrow Q, \qquad Q\Rightarrow P\] がともに成り立つことは同値である.
命題 4.8 の証明
\(P\Longleftrightarrow Q\)ならば,\(P,Q\)は常に同じ真理値をとるので,\(P\)が真なら必ず\(Q\)も真であり,逆も同様である.したがって\(P\Rightarrow Q\)と\(Q\Rightarrow P\)が成り立つ.
逆に,両方向の推論が成り立つとする.\(P,Q\)の真理値が異なる場合,一方が真で他方が偽となるので,真である方から偽である方への推論が成り立たない.したがって\(P,Q\)の真理値は常に一致し,\(P\Longleftrightarrow Q\)である.
二つの条件が同値であることを示すときには,通常,両方向の推論を示す.三つ以上の条件についても考え方は同じであるが,すべての組について両方向を示す必要はない.例えば三つの条件\(P,Q,R\)について \[P\Rightarrow Q,\qquad Q\Rightarrow R,\qquad R\Rightarrow P\] を示せば,推論をつなぐことによって\(P,Q,R\)は互いに同値であることが分かる.後で複数の条件が同値であることを示すときには,この方法を用いる.
命題\(P,Q\)について, \[P\Rightarrow Q\] が成り立つことと \[\lnot Q\Rightarrow\lnot P\] が成り立つことは同値である.
命題 4.9 の証明
命題3.7より,\(P\to Q\)と\(\lnot Q\to\lnot P\)は論理同値である.したがって,一方が恒真命題であることと他方が恒真命題であることは同値である.