9回目:直積集合と冪集合
9.1 直積集合
要素の順序対 (ordered pair) $(a,b)$ を考える.$a$は第1成分と呼ばれ,$b$は第2成分と呼ばれる.このとき $a=b$でないならば,$(a,b) \neq (b,a)$ である.さらに,$(a,b)=(c,d)$となるのは,$a=c$かつ$b=d$のときで,かつこのときに限る. 2つの集合$A$と$B$に対し,すべての順序対 $(a,b)$ $(a \in A, b \in B)$の集合は,$A$と$B$の直積 (direct product) と呼ばれ,$A\times B$と表す.定義より,
\[
A\times B = \{(a,b) : a \in A , b \in B \}
\]
となる.また,しばしば$A\times A$の代わりに,$A^2$と書く.
順序対の概念を拡張すると,$n$個の順序付けられた成分の組$(a_1, a_2, a_3, \ldots, a_n)$を要素として持つ直積集合が定義できる.
\[
A_1 \times A_2 \times \cdots \times A_n = \{(a_1, a_2, a_3, \ldots, a_n) : a_1 \in A_1, a_2 \in A_2, \cdots, a_n \in A_n \}
\]
\[
A^n = A \times A \times \cdots \times A = \{(a_1, a_2, a_3, \ldots, a_n) : a_1, a_2, \cdots, a_n \in A \}
\]
直積集合は例えば次のような例を表したいときに使う.
- 3次元空間内の全ての点の集合は$\mathbb{R}$を実数の集合として,$\mathbb{R}^3 = \{ (x, y, z) : x, y, z \in \mathbb{R} \}$と表せる.これを拡張した$n$個の実数の組の集まり$\mathbb{R}^n=\{(x_1,x_2,\ldots,x_n) : x_1,x_2,\ldots,x_n \in \mathbb{R}\}$を$n$次元ユークリッド空間という.
- $0$以上$1$以下の実数全体の集合を$[0,1]$としたとき,$[0,1]$は長さ$1$の線分,$[0,1]^2$は長さ$1$の正方形,$[0,1]^3$は長さ$1$の立方体を表す.一般に$[0,1]^n$は長さ$1$の$n$次元超立方体を表す.
- コンピュータ上で一般的に用いられる色の集合は$X$を0以上255以下の自然数の集合とし,集合$R$を赤の成分の大きさを表す集合,集合$G$を緑の成分の大きさを表す集合,集合$R$を青の成分の大きさを表す集合として,$R\times G\times B = \{(r,g,b) : r, g, b \in X\}$と表せる.
9.2 冪集合
非負整数$r$に対し,$A$の要素のうち,ちょうど$r$個の要素からなる部分集合全体からなる集合族を
\[
\binom{A}{r}
\]
と書く.
例えば,$A=\{1,2,3\}$のとき,
\[
\binom{A}{2}=\{\{1,2\},\{1,3\},\{2,3\}\}
\]
である.
ここで$A$がどんな集合であろうと,
$\binom{A}{0}=\{ \emptyset \}$
であることに注意する.
高校数学で$_{n} {\rm C}_r$という記号を学習したと思うが,大学数学では$\binom{n}{r}$という記号を使う.この$2$つは「$n$個から$r$個選ぶ方法」の個数を表しているが,上記の$A$の部分集合族$\binom{A}{r}$は「$A$から$r$個選んでできた部分集合」全体を表している.したがって,$A$が$n$個の要素からなる場合,$\binom{A}{r}$の要素の個数は$\binom{n}{r}$となる.
与えられた集合$A$に対して$A$のすべての部分集合からなる集合族を考える.この集合族は,$A$の冪(べき)集合 (power set) と呼ばれ,$2^A$で表される.
たとえば,$A=\{1,2,3\}$とする.このとき,
\[
2^A = \{\emptyset, \{1\}, \{2\}, \{3\}, \{1,2\}, \{1,3\}, \{2,3\}, \{1,2,3\}\}
\]
である.
この記号の起源は,$A$が$n$個の要素からなる集合のとき,
\[
\bigcup_{k=0}^{n} \binom{A}{k}=2^A
\]
となっており,$2^A$の要素の個数が
\[
\sum_{k=0}^{n} \binom{n}{k}=\binom{n}{0}+\binom{n}{1}+\cdots+\binom{n}{n}=2^n
\]
となるからである.