2回目:オイラーの多面体定理
定理 2.1 (オイラーの多面体定理)
凸多面体$\mathcal{P}$の頂点の個数,辺の個数,面の個数をそれぞれ$v,e,f$とする.
このとき,
\[
v-e+f=2
\]
が成り立つ.
この定理は高校の数学Aの教科書に書かれているが特に証明は書かれていない.ここではこの定理の証明を与える.そもそも「凸多面体」の厳密な定義は何であろうか.高校の教科書を見ると「平面で囲まれた立体を多面体といい,凹みのない多面体を凸多面体という」と書いてある.これは「数学的な定義」ではなく,直感的な定義である.実は厳密に凸多面体を定義しようとすると色々準備が必要である.さらに頂点,辺,面を定義するのにもさらなる準備が必要となってくる.しかし,この講義でこれらを1から定義するのは本質から外れるので,一旦飛ばしてオイラーの多面体定理の証明を行う.
まず,2次元,つまり凸多角形のことを考える.
定義 2.2
平面の有限個の凸多角形の集合$\Gamma=\{\mathcal{P}_1,\mathcal{P}_2,\ldots,\mathcal{P}_n\}$に対し,
次の条件が満たされるとき,$\Gamma$を凸多角形の貼り合せと呼ぶ:
これは多角形をいくつかの凸多角形を「綺麗に」貼り合わすことで構成する操作である.
例えば,下図の集合$\{\mathcal{P}_1,\mathcal{P}_2\}$や$\{\mathcal{Q}_1,\mathcal{Q}_2\}$は条件(1)を満たしていない.
- $i \neq j$のとき,$\mathcal{P}_i \cap \mathcal{P}_j \neq \emptyset$であれば,$\mathcal{P}_i \cap \mathcal{P}_j$は$\mathcal{P}_i$の辺または頂点であり,かつ$\mathcal{P}_j$の辺または頂点である.
- 平面図形$\mathcal{P}_1 \cup \cdots \cup \mathcal{P}_n$は(凸とは限らない)多角形である.この多角形を$|\Gamma|$と表し,$\Gamma$に付随する多角形と呼ぶ.




命題 2.3
凸多角形の貼り合せ$\Gamma$の頂点の個数,辺の個数,面の個数をそれぞれ$v,e,f$とする.
このとき,
\[
v-e+f=1
\]
が成り立つ.
上記の凸多面体の貼り合わせの例である$\{\mathcal{P}_1,\mathcal{P}_2,\mathcal{P}_3,\mathcal{P}_4,\mathcal{P}_5,\mathcal{P}_6\}$だと$v=10,e=15,f=6$で確かに
\[
v-e+f=10-15+6=1
\]
が成り立つ.それでは証明していく.
証明
(第一段)$\Gamma=\{\mathcal{P}_1,\ldots,\mathcal{P}_n\}$とする.もし$\mathcal{P}_1$が三角形でないとすると,$\mathcal{P}_1$に対角線を1本引いて$\mathcal{P}_1$を$\mathcal{Q}_1$と$\mathcal{Q}_2$に分割し,凸多角形の貼り合せ$\Gamma'=\{\mathcal{Q}_1,\mathcal{Q}_2,\mathcal{P}_2,\ldots,\mathcal{P}_n\}$を考える.
すると$\Gamma'$は$\Gamma$よりも辺が$1$本増え,面も$1$個増える.ただし,頂点の個数は変わらない.よって$\Gamma'$と$\Gamma$で$v-e+f$の値は変わらない.したがって,$\Gamma'$で$v-e+f=1$を証明すればよい.
(第二段)凸$n$多角形は,1つの頂点を選び,その頂点から隣り合わない頂点に対角線を引けば,三角形に分割できる.すると第一段の操作を繰り返せば,結局$\Gamma$のすべての面が三角形のときに,$v-e+f=1$を示せばよい(このような三角形のみからなる貼り合せを三角形の貼り合せ}または三角形分割}と呼ぶ).
(第三弾)$n$に関する帰納法で証明する.$n=1$のとき,つまり$\Gamma$がただ1つの三角形からなるときは,明らかに主張が成り立つ.$n \geq 2$とし,$\Gamma=\{\mathcal{P}_1,\ldots,\mathcal{P}_n\}$を三角形の貼り合せとする.$\Gamma$の面の中で,少なくとも1つの辺が$|\Gamma|$の境界に含まれるものを任意に選ぶ.その面を$\mathcal{P}$とし,さらにその頂点を$A,B,C$とする.このとき,次の3つの可能性がある.
(1)と(2)の場合,$\Gamma$から$\mathcal{P}$を除いた$\Gamma \setminus \{\mathcal{P}\}$も三角形の貼り合せであって,$v-e+f$は不変である.すると帰納法の仮定から主張が成り立つ.
(3)の場合,$\Gamma$から$\mathcal{P}$を除いた$\Gamma \setminus \{\mathcal{P}\}$は三角形の貼り合せにならないことに注意する.実際,$|\Gamma|$の境界に含まれる$\mathcal{P}$の辺を$AB$としたとき,$\Gamma \setminus \{\mathcal{P}\}$は2つの多角形の貼り合せが頂点$C$で繋がったものになる.
その2つ多角形の貼り合せを$\Gamma_1$と$\Gamma_2$とする.ここで$\Gamma_1$と$\Gamma_2$は三角形の貼り合せである.$\Gamma_1$と$\Gamma_2$の頂点の個数,辺の個数,面の個数をそれぞれ$v_1,v_2,e_1,e_2,f_1,f_2$とする.すると,
\[
f=f_1+f_2+1, e=e_1+e_2+1, v=v_1+v_2-1
\]
が成り立つ.帰納法の仮定を$\Gamma_1$と$\Gamma_2$に用いると
\[
v_1-e_1+f_1=v_2-e_2+f_2=1
\]
を得るので,以上から
\[
v-e+f=(v_1+v_2-1)-(e_1+e_2+1)+(f_1+f_2+1)=(v_1-e_1+f_1)+(v_2-e_2+f_2)-1=1
\]
となり,主張が成り立つ.
それではオイラーの多面体定理を証明する.


(第二段)凸$n$多角形は,1つの頂点を選び,その頂点から隣り合わない頂点に対角線を引けば,三角形に分割できる.すると第一段の操作を繰り返せば,結局$\Gamma$のすべての面が三角形のときに,$v-e+f=1$を示せばよい(このような三角形のみからなる貼り合せを三角形の貼り合せ}または三角形分割}と呼ぶ).
(第三弾)$n$に関する帰納法で証明する.$n=1$のとき,つまり$\Gamma$がただ1つの三角形からなるときは,明らかに主張が成り立つ.$n \geq 2$とし,$\Gamma=\{\mathcal{P}_1,\ldots,\mathcal{P}_n\}$を三角形の貼り合せとする.$\Gamma$の面の中で,少なくとも1つの辺が$|\Gamma|$の境界に含まれるものを任意に選ぶ.その面を$\mathcal{P}$とし,さらにその頂点を$A,B,C$とする.このとき,次の3つの可能性がある.
- $\mathcal{P}$の2つの辺が$|\Gamma|$の境界に含まれる.
- $\mathcal{P}$の1つの辺が$|\Gamma|$の境界に含まれるが,その辺に属さないもう1つの頂点は$|\Gamma|$の境界に含まれない.
- $\mathcal{P}$の1つの辺が$|\Gamma|$の境界に含まれており,その辺に属さないもう1つの頂点も$|\Gamma|$の境界に含まれる.




定理 2.1の証明
凸多面体$\mathcal{P}$の任意の面$\mathcal{F}$を1つ選び,$\mathcal{P}$から面$\mathcal{F}$を除去し,$\mathcal{P}$に穴を開ける.ただし,$\mathcal{F}$の辺と頂点はそのまま残す.次に,穴が上になるように凸多面体$\mathcal{P}$を置き,さらに$\mathcal{P}$の内部は空洞で,境界が弾性のゴムでできていると仮定する.今,その穴を十分大きく広げて,平面に押しつぶすと,その平面に$\mathcal{P}$の$\mathcal{F}$以外の面からなる凸多角形の貼り合せができる.
この貼り合せの面の個数は$f-1$,辺の個数は$e$,頂点の個数は$v$であるので,命題2.3を使うと
\[
v-e+(f-1)=1
\]
より,
\[
v-e+f=2
\]
が得られる.

