離散数学

3回目:正多面体の分類と単体的凸多面体

3.1 正多面体の分類

オイラーの多面体定理の1つの応用として正多面体の分類がある.まず正多面体の定義から始める.
定義 3.1
凸多面体$\mathcal{P}$の任意の面が合同な正多角形であって,しかも,それぞれの頂点に集まる辺の個数が等しいとき,凸多面体$\mathcal{P}$を正多面体という.特に,正多面体の面の個数が$f$のときは,正$f$面体という.
定理 3.2
正多面体は,正四面体,正六面体,正八面体,正十二面体,正二十面体の5種類に限る.
証明
正$f$面体$\mathcal{P}$の面を正$n$角形,それぞれの頂点に集まる辺の個数を$m$個とする.それぞれの面に辺は$n$本あり,$1$つの辺は$2$つの面に含まれるから,$\mathcal{P}$の辺の個数$e$は$\frac{nf}{2}$である.一方,それぞれの頂点に$m$本の辺が集まり,$1$つの辺は$2$つの頂点に集まるから,頂点の個数が$v$ならば,辺の個数は$\frac{mv}{2}$である.つまり, \[ \frac{nf}{2}=\frac{mv}{2}=e \] が成り立つ.すると, \[ v=\frac{nf}{m}, \ \ \ e=\frac{nf}{2} \] であるから,これらをオイラーの多面体定理$v-e+f=2$に代入すると,
$\displaystyle \frac{nf}{m}-\frac{nf}{2}+f=2$
(3)
となる. すると等式(3)を満たす自然数の組$n,m,f$をすべて求めれば良い.ただし,$n,m,f \geq 3$である. 等式(3)から \[ f(4-(n-2)(m-2))=4m \] が得られる.ここで$f>0, 4m >0$であるから \[ 4-(n-2)(m-2) >0 \] よって \[ (n-2)(m-2) < 4 \] となる.一方,$n,m \geq 3$であるから,$(n-2,m-2)$は \[ (1,1), (2,1), (1,2), (3,1), (1,3) \] のいずれかである.それぞれの場合に$n,m$を求め,さらに等式(3)から$f$を求めることができる.またそれぞれの$v$と$e$も求まる.以下はその結果であり,上から正四面体,正六面体,正八面体,正十二面体,正二十面体を意味し,証明が完了する.
$n$ $m$ $f$ $e$ $v$
$3$ $3$ $4$ $6$ $4$
$4$ $3$ $6$ $12$ $8$
$3$ $4$ $8$ $12$ $6$
$5$ $3$ $12$ $30$ $20$
$3$ $5$ $20$ $30$ $12$
補足 3.3
2010年の大阪大学理系数学の第3問で次の問題が出題された.
$l,m,n$を$3$以上の整数とする.等式 \[ \left( \frac{n}{m}-\frac{n}{2}+1 \right) l =2 \] を満たす$l,m,n$の組をすべて求めよ.
文字は変わっているが,これは上の等式(3)と同じである.問題としてはただの整数問題であるが実は背景に正多面体の分類が潜んでいるのである.
凸多面体$\mathcal{P}$の各面の重心を頂点とする凸多面体を$\mathcal{P}^{\vee}$と書き,これを$\mathcal{P}$の双対凸多面体という.例えば,正六面体の双対凸多面体は正八面体であり,正八面体の双対凸多面体は正六面体である.また正十二面体と正二十面体は互いに双対凸多面体となっている.なお正四面体の双対凸多面体はふたたび正四面体である.
命題 3.4
凸多面体$\mathcal{P}$と双対凸多面体$\mathcal{P}^{\vee}$の頂点,辺,面の個数をそれぞれ$v,e,f$と$v',e',f'$とする. このとき, \[ v=f', e=e', f=v' \] である.
この命題は証明しないが,正多面体で確認してみよう.

3.2 単体的凸多面体

凸多面体はすべての面が三角形となるとき,単体的であると呼ぶ.例えば,四面体や正八面体,正二十面体は単体的であるが,正六面体,正十二面体,三角柱などは単体的ではない. 単体的凸多面体は頂点,辺,面の個数に対して次のような関係を持つ.
補題 3.5
単体的凸多面体$\mathcal{P}$の頂点の個数,辺の個数,面の個数をそれぞれ$v,e,f$とする. このとき, \[ e=3v-6, f=2v-4 \] が成り立つ.
証明
単体的凸多面体$\mathcal{P}$の各面は$3$本の辺に囲まれ,それぞれの辺は$2$枚の面に属する.すると \[ e=\frac{3f}{2} \] が成り立つ.オイラーの多面体定理にこの式を代入すると \[ e=3v-6, f=2v-4 \] が得られる.
つまり単体的凸多面体の辺と面の個数は頂点の個数から決まるということである. それだけではなく,この補題はある種の対称性を導く. 一般の凸多面体論において,頂点も辺も実は面と呼ばれている.実際は,$0$次元の面のことを頂点,$1$次元の面のことを辺,そして$2$次元の面を通常の面と呼ぶ.先ほどまで凸多面体$\mathcal{P}$の頂点の個数,辺の個数,面の個数を$v,e,f$としていたが,ここでは$f_0,f_1,f_2$と書くことにし,数列 \[ f(\mathcal{P})=(f_0,f_1,f_2) \] を定義する.これを$\mathcal{P}$の$f$列と呼ぶ. さらに,この$f$列を使って,$\mathcal{P}$の$h$列$h(\mathcal{P})=(h_0,h_1,h_2,h_3)$を次の公式から定義する: \[ \sum_{i=0}^3 f_{i-1} (x-1)^{3-i}=\sum_{i=0}^3 h_i x^{3-i}. \] ただし,$f_{-1}=1$である.
例 3.6
立方体$\mathcal{P}$に対し,$h$列を求めてみよう.このとき$f$列は$f(\mathcal{P})=(8,12,6)$である. すると$h$列の公式を考えると, \begin{align*} f_{-1} (x-1)^3 + f_0 ( x-1)^2 +f_1 (x-1) +f_2&=(x-1)^3 + 8(x-1)^2+12 (x-1)+6\\ &=x^3+5x^2-x+1\\ &=h_0 x^3 + h_1 x^2 + h_3 x +h_4 \end{align*} となるので,両辺の係数を比較すると$h(\mathcal{P})=(1,5,-1,1)$となる.

次に正八面体$\mathcal{Q}$に対し,$h$列を求めてみよう. このとき,$f$列は$f(\mathcal{Q})=(6,12,8)$である.すると$h$列の公式を考えると \begin{align*} f_{-1} (x-1)^3 + f_0 ( x-1)^2 +f_1 (x-1) +f_2&=(x-1)^3 + 6(x-1)^2+12 (x-1)+8\\ &=x^3+3x^2+3x+1\\ &=h_0 x^3 + h_1 x^2 + h_3 x +h_4 \end{align*} となるので,両辺の係数を比較すると,$h(\mathcal{Q})=(1,3,3,1)$となる.
上記の例の$h(\mathcal{P})$と$h(\mathcal{Q})$を見比べてみると,$h(\mathcal{P})$は負の数がでたりとあまり形が良くないが,$h(\mathcal{Q})$は対称かつすべて正の数となっている. この2つの凸多面体の大きな違いは,$\mathcal{Q}$が単体的凸多面体であることである. 実は,単体的凸多面体ならば$h$列は綺麗な形をしている.実際,次の定理が成り立つ.
定理 3.7
$v$個の頂点を持つ単体的凸多面体$\mathcal{P}$の$h$列は \[ h(\mathcal{P})=(1,v-3,v-3,1) \] となる.
証明
補題3.5を$h$列の公式に代入し,両辺の係数を比較すれば示せる.