離散数学

7回目:格子正多角形の分類

オイラーの多面体定理を使うと,正多面体が5種類しか存在しないことを証明することができた.次は格子正多角形について考える. ここで,正多角形とは全ての辺の長さが等しい凸多角形のことである.まずすぐにわかることは,格子正方形の存在である. 実際,$(0,0),(1,0),(1,1),(0,1)$を頂点とする正方形を考えればよい. では,正方形以外に格子正多角形は存在するのだろうか. 実はピックの公式を使えば格子正三角形が存在しないことがすぐわかる.
命題 7.1
$xy$平面内に 格子正三角形は存在しない.
証明
格子正三角形が$xy$平面内に存在したとする.平行移動や対称性により,$(0,0)$と$(a,b)$(ただし$a, b$は非負整数で同時に$0$とはならない)を頂点に持つと仮定して良い.このとき,三平方の定理からこの正三角形の1辺の長さは$\sqrt{a^2+b^2}$である.するとこの正三角形の面積は \[ \frac{\sqrt{3}}{4} \cdot (\sqrt{a^2+b^2})^2=\frac{\sqrt{3}}{4}(a^2+b^2) \] となる.$a^2+b^2$は自然数なので,この面積は無理数となる.しかし,ピックの公式より,格子多角形の面積は必ず有理数となるので矛盾する.よって格子正三角形は$xy$平面内に存在しない.
$xy$平面上の点$(a,b)$は,$a$と$b$がともに有理数のとき,有理点と呼ばれる.すべての頂点が有理点となる多角形のことを有理多角形と呼ぶ.有理多角形は何倍かに相似拡大すると格子多角形となる.特に有理正多角形は格子正多角形となる. すると,命題7.1より次の系が得られる.
系 7.2 (1991年大阪大学)
$xy$平面内において有理正三角形は存在しない.
次に命題7.1を使って,格子正$3n$角形が存在しないことを証明する.
命題 7.3
$n$を自然数とする.このとき, $xy$平面内に 格子正$3n$角形は存在しない.
証明
もし,$xy$平面内に格子正$3n$角形$A_1A_2A_3\cdots A_{3n}$が存在すると,そのうちの3頂点$A_1,A_{n+1},A_{2n+1}$を結んでできる三角形は格子正三角形となってしまい,命題7.1に矛盾する.
それでは一般の場合を考える.
定理 7.4
$xy$ 平面内の格子正多角形は正方形のみである.
証明
$xy$平面内の格子正$n$多角形$\mathcal{P}$の頂点を \[ (a_1,b_1),(a_2,b_2),\ldots,(a_n,b_n) \] とする.すると,$\mathcal{P}$の$n$倍の相似拡大,つまり \[ (na_1,nb_1),(na_2,nb_2),\ldots,(na_n,nb_n) \] を頂点とする凸多角形$\mathcal{Q}$も格子正$n$角形である. このとき,$\mathcal{Q}$の重心 \[ \frac{\sum_{i=1}^{n}(na_i,nb_i)}{n}=\sum_{i=1}^{n}(a_i,b_i) \] は格子点である.すると,平行移動により$\mathcal{Q}$の重心は原点であると仮定してよい.

格子正$n$角形$\mathcal{Q}$の外接円の半径を$r>0$とすると,$\mathcal{Q}$の面積は \[ n \frac{r^2}{2} \sin \frac{2 \pi}{n} \] となる. ピックの公式から$\mathcal{Q}$の面積は有理数となる.一方で,半径$r$は原点と$\mathcal{Q}$の頂点の距離なので,特に,整数の平方根である.つまり$r^2$は整数である.すると$\mathcal{Q}$の面積が有理数となることから,$\sin \frac{2\pi}{n}$も有理数となる.

次の主張を用いると$\sin \frac{2\pi}{n}$が有理数となる整数$n \geq 3$を求めることができる.
主張1:$a$と$\sin (a\pi)$がともに有理数であれば,$\sin (a\pi) \in \{0,\pm \frac{1}{2},\pm 1\}$である.
実際,$\sin \frac{2\pi}{n}$が有理数であれば,$\sin \frac{2\pi}{n}\in \{0,\pm \frac{1}{2},\pm 1\}$が従う.特に,$\sin \frac{2\pi}{n}$は$\frac{1}{2}$または$1$である.これは$n=4$または$n=12$を意味する.しかし命題7.3より,格子正十二角形は存在しない.したがって$n=4$となり,格子正多角形は正方形しか存在しないことがわかる.

それでは主張1を証明する.そのためにまず次の主張を証明する.
主張2:$a$と$\cos (a\pi)$がともに有理数であれば,$\cos (a\pi) \in \{0,\pm \frac{1}{2},\pm 1\}$である.
(主張2の証明). 倍角の公式から任意の整数$m \geq 0$に対して,$\cos (2^m a \pi)$も有理数である. ここで次の有理数の集合を考える: \[ A= \{ \cos (2^m a \pi) : m=0,1,\ldots\}. \] $A$が有限集合であることを示そう.$a=\frac{q}{p}$とする.ただし,$p$と$q$は互いに素な整数で$p>0$である.$m \geq 1$のとき,複素数 \[ \cos \frac{2^{m}q}{p}{\pi}+ i \sin \frac{2^{m}q}{p}\pi \] は方程式$z^p=1$の解となる.実際,ド・モアブルの定理により \[ \left(\cos \frac{2^{m}q}{p}{\pi}+ i \sin \frac{2^{m}q}{p}\pi \right)^p=\cos (2^{m}q\pi)+ i \sin (2^{m}q\pi) =1 \] である.代数学の基本定理から$z^p=1$の解は重複を込めてを含めてちょうど$p$個である.したがって,集合 \[ B=\left\{ \cos (2^{m}a\pi)+ i \sin (2^{m}a \pi): m=0,1,\ldots \right\} \] は有限集合となる.集合$A$は$B$に属する複素数の実部の集合であるので,$A$も有限集合となる.

次に,集合$A$に属する有理数$\frac{c}{b}$(ただし$b$と$c$は高いに素な整数で$b>0$)のうち,$b$が最大となるものを選び,それを$\cos(2^k a \pi)=\frac{c}{b}$とする($k$は非負整数).倍角の公式から \[ \cos(2^{k+1} a \pi)=2 \left(\frac{c}{b} \right)^2-1=\frac{2c^2-b^2}{b^2} \in A \] となる. $b$が奇数であれば,右辺の分母分子は互いに素な整数であるので,$b$の最大性から$b^2 \leq b$となり,$b=1$となる.$b$が偶数であれば$b=2b'$とおくと, \[ \cos(2^{k+1} a \pi)=\frac{c^2-2b'^2}{2b'^2} \] である.$b$と$c$は互いに素であったので,$c$は奇数であり,よって右辺の分母分子も互いに素な整数である.再び$b$の最大性から$2b'^2 \leq b = 2b'$となり,$b=2$となる. したがって,$A$に属する有理数は整数,または既約分数の分母が$2$となる.特に$-1 \leq \cos x \leq 1$から$A \subset \{0 , \pm \frac{1}{2}, \pm 1\}$である.よって$m=0$のときを考えると,$\cos (a\pi) \in \{0,\pm \frac{1}{2},\pm 1\}$を得る.

(主張1の証明). $\frac{1}{2}-a$は有理数なので,主張1から \[ \sin (a\pi)= \cos \left( \frac{1}{2}-a \right) \pi \in \left\{0,\pm \frac{1}{2},\pm 1\right\} \] が得られる.