情報代数学

4.2:単項イデアル整域

次に全てのイデアルが単項イデアルとなる環を考えていこう.
定義 4.2.1
$R$を整域とする.$R$の任意のイデアルが単項イデアル,つまり,任意のイデアル $I \subset R$ に対し,ある元 $a \in R$ が存在して $I = \langle a \rangle = \{ ax : x \in R \}$ と書けるとき,$R$を単項イデアル整域(Principal Ideal Domain, PID)という.
例えば,$\mathbb{Z}$は単項イデアル整域である.実は,ユークリッド整域はいつでも単項イデアル整域である.
定理 4.2.2
ユークリッド整域は単項イデアル整域である.
証明
$(R,\delta)$を任意のユークリッド整域とし,$I$を$R$の任意のイデアルとする.もし$I=0$なら$I=\langle 0 \rangle$なので単項イデアルである.よって$I \neq 0$と仮定してよい.このとき,元$a \in I \setminus\{0\}$がとれることに注意する.すると$\delta(I \setminus \{0\}) \subset \mathbb{Z}_{\geq 0}$であるので,$\delta(I \setminus \{0\})$は最小値$d_0$を持つ.そこで$\delta(a)=d_0$を満たす$a \in I \setminus \{0\}$をとる.
$I=\langle a \rangle$となることを示す.$a \in I$とイデアルの性質より$\langle a \rangle \subset I$が従う.そこで,$x \in I \setminus \langle a \rangle$が存在したと仮定する.$a \neq 0$であり,$(R,\delta)$がユークリッド整域であるので,$q, r \in R$を用いて$x=aq+r$と書くことができる.ただし,$r=0$または$\delta(r) < \delta(a)$である.もし$r=0$ならば,$x=aq \in \langle a \rangle$なので仮定に矛盾する.よって$r \neq 0$かつ$\delta(r) < \delta(a)=d_0$である.しかし,これは$d_0$の最小性に矛盾する.以上より,$I=\langle a \rangle$が従い,$R$は単項イデアル整域である.
体$R$に対し,$R[x]$がユークリッド環となることから次の系が得られる.
系 4.2.3
$R$を体とする.このとき,$R[x]$は単項イデアル整域である.