情報代数学

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4:素因数分解と環の構造

  • 整数に対して「余りを考慮した割り算」が常に可能(剰余の定理).
  • 任意の$a_1,\ldots,a_n \in \mathbb{Z}$が生成するイデアルは,ある1つの整数によって生成される(単項イデアル性).

  • 任意の整数$n$は素数の積に一意的に分解できる(素因数分解の一意性).

これらの事実の間には密接な関係がある. 実際,(1) の性質から (2) が導かれ,(2) が成り立つことで (3) も証明できる.
実は,これらの性質は整数環 $\mathbb{Z}$ に特有のものではなく,より一般の可換環でも類似の構造が存在する.たとえば,多項式環 $\mathbb{R}[x]$ においても,剰余の定理,単項イデアル性,および因数分解の一意性が成り立つことが知られている.
この節では,整数や多項式のように「余りを考慮した割り算」が可能な可換環を抽象的に定式化し,それらに共通する因数分解の構造を統一的に理解することを目指す.