情報代数学

5.1:加群の定義

集合$R$と$M$に対し,写像 \[ \bullet : R \times M \to M, \quad (r,x) \mapsto r \bullet x \] を$R$の$M$への作用または$M$への$R$作用という.
では加群の定義を紹介する.
定義 5.1.1
$(R,+_R,\cdot_R)$を可換環,$(M,+_M)$をアーベル群とする.また$M$への$R$作用 \[ \bullet : R \times M \to M, \quad (a,x)\mapsto a \bullet x \] を与える.このとき,以下の条件を満たすとき,$M$を$R$加群 ($R$-module) という.
  • 任意の$a,b \in R$と$x \in M$に対し,$(a \cdot_R b) \bullet x=a \bullet (b \bullet x)$,

  • 任意の$a,b \in R$と$x,y \in M$に対して,$(a+_R b) \bullet x=a \bullet x +_M b \bullet x, a \bullet (x+_M y)=a\bullet x+_M b\bullet y$,

  • 任意の$x \in M$に対して,$1 \bullet x =x$.

$M$が加群のとき,この作用をスカラー倍ということもある.
まずは加群には環とベクトル空間が含まれることを見る.
例 5.1.2
$R$自身は$R$作用 \[ \bullet : R \times R \to R, \quad (a,x) \mapsto a \bullet x :=a \cdot_R x \] によって$R$加群となる.実際,$R$加群の条件は環の条件に含まれる.したがって,加群は環を本質的に含んでいる.
例 5.1.3
$K$が体のとき,$K$加群とは$K$上のベクトル空間に他ならない.実際,加群はベクトル空間のスカラー倍を体から環に拡張したものである.
例 5.1.4
$R^n$は成分毎の加法と$R$作用 \[ (a_1,\ldots,a_n)+(b_1,\ldots,b_n):=(a_1+b_1,\ldots,a_n+b_n) \] \[ x\bullet (a_1,\ldots,a_n):=(xa_1,\ldots,x a_n) \] により$R$加群となる.これは体上のベクトル空間$\mathbb{R^n}$や$\mathbb{C^n}$を加群に拡張しているだけである.
ベクトル空間と同様に,次の性質が成り立つ.
命題 5.1.5
$M$を$R$加群,$a \in R, x \in M$とする.このとき,以下が成り立つ.
  • $0_R \bullet x = 0_M$,

  • $a \bullet 0_M=0_M$,

  • $(-1_R) \bullet x = -x$.

証明
  • $0_R \bullet x=(0_R+0_R) \bullet x=(0_R \bullet x)+(0_R \bullet x)$ から移項により,$0_R \bullet x = 0_M$が従う.

  • (1)と同様.

  • $x +_M (-1_R) \bullet x = (1_R+_R (-1_R)) \bullet x=0_R \bullet x = 0_M$より$(-1_R) \bullet x$は$M$における$x$の逆元,よって$(-1_R) \bullet x = -x$.

さらに加群にはアーベル群も含まれる.
例 5.1.6
$M$が$\mathbb{Z}$加群であれば,その$\mathbb{Z}$作用は条件(i), (ii), (iii)と命題5.1.5から \[n\bullet x=\begin{cases}\underbrace{x+\cdots+x}_{n個} & (n > 0)\\ 0 & (n=0)\\ -((-n)\bullet x) & (n < 0) \end{cases}\] と定まる.したがって,$\mathbb{Z}$加群とはアーベル群に他ならない.
これまでの例より,加群にはアーベル群,(可換)環,ベクトル空間とこれまで学習してきた代数系の多くが含まれている.