情報代数学

5.2:部分加群と剰余加群

加群の部分構造である部分加群を定義する.これはベクトル空間の部分空間,環のイデアル,アーベル群の部分群に対応する構造である.
定義 5.2.1
$M$を$R$加群とする.部分集合$N \subset M$が$M$の部分$R$加群,または単に部分加群であるとは,$N$は$M$の加法に関して(アーベル)部分群であり,$R$の作用で閉じている,つまり条件
  • $0 \in N$,

  • 任意の$x,y \in N$に対して$x+y \in N$,

  • 任意の$a \in R, x \in N$に対して$a \bullet x \in N$

を満たすときにいう.このとき,定義から,$N$は$M$と同じ$R$作用で$R$加群となる.
例 5.2.2
  • $R$加群$M$の部分集合$\{0\}$と自身$M$は$M$の部分加群である.これらを自明な部分加群という.

  • $R$を$R$加群として考えると,$R$の部分加群は$R$のイデアルに他ならない.

  • アーベル群を$\mathbb{Z}$加群として考えると,その部分加群は部分群に他ならない.

  • $K$が体とすると,$K$上のベクトル空間を$K$加群として考えると,部分加群は部分空間に他ならない.

重要な部分加群を導入する.
定義 5.2.3
$M$を$R$加群とし,$S=\{x_\lambda\}_{\lambda \in \Lambda}$を$M$の元の集合族とする. このとき, \[RS:=\left\{ \sum_{\lambda \in \Lambda} a_{\lambda} x_{\lambda} : \mbox{$a_{\lambda}\in R$で,有限個の$\lambda \in \Lambda$を除いて$a_{\lambda}=0$}\right\}\] とおく.この集合の$\sum_{\lambda \in \Lambda} a_{\lambda} x_{\lambda}$は無限個の元の和に見えるが,有限個の$\lambda \in \Lambda$を除いて$a_{\lambda}=0$なので,有限個の$0$でない元の和として見ることができる.また$S$が有限集合$S=\{x_1,\ldots,x_n\}$のとき, \[ RS=\sum^n_{i=1}Rx_i \] とも表す.
命題 5.2.4
$M$を$R$加群とし,$S=\{x_\lambda\}_{\lambda \in \Lambda}$を$M$の元の集合族とする. このとき,$RS$は$S$を含む$M$の最小の部分加群である.$RS$を$S$により生成される$M$の部分加群という.また$RS=M$のとき,$S$は$M$の生成系という.
証明
イデアルのときの同様である.
次に剰余加群を導入しよう. $N$を$R$加群$M$の部分加群とする.このとき,$M$上の二項関係を \[ x \sim_N y \overset{\rm def}{\iff} x-y \in N \] で定義する.これが同値関係となることは群のときと同様. このとき,$x \in M$の同値類(剰余類)を$x+N$,商集合を$M/N$と表す.今,$M/N$上の加法と$R$作用を \[ (x+N)+(y+N):=(x+_My)+N \] \[ a \bullet (x+N):=a \bullet_M x+N \] で定義する.ただし,$+_M$と$\bullet_M$はそれぞれ$M$の加法と$R$作用である.
命題 5.2.5
$M/N$は$R$加群である.これを$M$の$N$による剰余加群という.
証明
$M/N$がアーベル群となることは剰余群のときと同様.
($\bullet$のwell-defined性) $x+N=y+N$を満たす任意の$x+N,y+N \in M/N$と$a \in R$をとる.このとき,$x-y \in N$である.このとき,$N$が$M$の部分加群なので \[ a \bullet_M x-a \bullet_M y=a \bullet_M (x-y) \in N \] である.よって, \[ a \bullet (x+N)= a \bullet_M x+N+ N=a \bullet_M y +N=a \bullet (y+N) \] であるので,$\bullet$はwell-definedである.
この作用に対して,$M/N$が加群の条件を満たすことは容易に示せる.