6.1:環上の行列
まずは環上の行列に関するいくつかの定義と性質を見ていく.ほとんどの命題の証明は線形代数学における体上の行列と同様にできるので,ここでは事実だけ述べていく. $R$を可換環とする.$R$上の$m \times n$行列$A$とは,$R$の元を$m$行,$n$列に並べたものである: \[ A=(a_{ij})_{\substack{1 \leq i\leq m\\ 1 \leq j\leq n}}=\begin{pmatrix} a_{11} & a_{12} & \cdots & a_{1n}\\ a_{21} & a_{22} & \cdots & a_{2n}\\ \vdots & \vdots & & \vdots \\ a_{m1} & a_{m2} & \cdots & a_{mn} \end{pmatrix}. \] $R$上の$m \times n$行列全体の集合を$M_{m,n}(R)$と書く.$n=m$のときは,$M_{n}(R)$と書く. このとき,体上の行列と同様に,積と和を定義することができる. $M_{n}(R)$の行列 \[ E_n:=\begin{pmatrix} 1_R & & \mathbf{0}\\ & \ddots & \\ \mathbf{0} & & 1_R \end{pmatrix} \] を単位行列という.$A \in M_n(R)$が正則行列であるとは,ある$B \in M_n(R)$が存在して, \[ AB=BA=E_n \] を満たすときにいう.このとき,$B$を$A$の逆行列といい,$A^{-1}$と表す.
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$A$の行列式を \[ \det(A):=\sum_{\sigma \in \mathfrak{S}_n} {\rm sgn}(\sigma) a_{1\sigma(1)}a_{2\sigma(2)}\cdots a_{n\sigma(n)} \] で定義する.ここで,$\mathfrak{S}_n$は$n$次対称群で,${\rm sgn}(\sigma)$は$\sigma$の符号を表す.
$A$の余因子行列$\widetilde{A}=(\widetilde{a_{ij}})_{1 \leq i,j \leq n}$を, \[ \widetilde{a_{ij}}:=(-1)^{i+j} \det(A_{ji}) \] で定義する.ここで,$A_{ji}$は$A$から第$j$行と第$i$列を取り除いた$n-1$次正方行列である.
$n \times m$行列$F \in M_{n,m}(R)$に対し,基本行列を左右から有限回掛ける操作を初等変形という.基本行列は正則行列であり,その逆行列も基本行列である. 2つの$n \times m$行列 $F,F' \in M_{n,m}(R)$に対し,$F$を初等変形することで$F'$が得られるとき,$F \sim F'$と書く.このとき,$\sim$は$M_{n,m}(R)$上の同値関係である.
$E_{ij}(\alpha,0,0,1)$を$F$の左(右)から掛けることは,$F$の$i$行(列)を$\alpha$倍することである.
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$E_{ij}(0,1,1,0)$を$F$の左(右)から掛けることは,$F$の$i$行(列)と$j$行(列)を入れ替えることである.
$E_{ij}(1,\beta,0,1)$を$F$の左(右)から掛けることは,$F$の$i$行(列)に$j$行(列)の$\beta$倍を足すである.